陶器の破片に書かれた文章の筆跡分析に関する発見から、旧約聖書の一部が、これまで研究者が考えていたよりも早期に書かれていた可能性のあることが明らかになった。
イスラエルにあるテルアビブ大学は11日、アラド城塞から見つかった紀元前600年の陶器から、当時の社会的エリート層だけが文字を読めたわけではないとする発見を米国科学アカデミー紀要(PNAS)に投稿した。
テルアビブ大学の考古学者で聖書学者のイスラエル・フィンケルシュタイン氏は、この筆跡分析が古代のユダ王国の人々について新しい情報をもたらすと語った。
フィンケルシュタイン氏は科学情報サイト「Live Science」に、「私たちは、離れた場所に派遣されていた、文字を書ける実に階級の低い兵士たちを扱っています。ですから、当時のユダには何らかの形の教育システムがあったはずです」と述べた。
フィンケルシュタイン氏はこの発見の意義について、ユダ王国がこの時代に旧約聖書の一部を書き、編集することができるだけの知的資源を有していたと明らかになったことだと説明した。
イスラエルの新聞「ハアレツ(Haaretz)」は、旧約聖書の異なる書物が厳密にいつ書かれたかについては学術的な論争があり、鍵となる質問は、これらの最古の本が紀元前586年に起きたユダ王国とその首都エルサレムの陥落の前と後どちらに書かれたかということだと言及した。
「聖書の重要な大部分がいつ書かれたかについては、激しい論争があります。しかしこれに答えるには、『第一神殿時代の末期におけるユダ王国の識字率は? そして、その後の識字率は?』というより広い質問に答えなければなりません」とフィンケルシュタイン氏は述べた。
考古学者、物理学者、数学者からなるチームによって行われているこの研究では、1960年台にアラド城塞跡から発見された陶器のかけらを撮影、デジタル化し分析するために、特定の画像ツールとアルゴリズムが利用された。
その銘刻には、城塞の需品係将校エリアシブに宛てた軍隊の移動と食料の分配についての情報が含まれていた。
チームの一員の数学者バラク・ソバー氏は、そのプロセスの詳細を説明した。「私たちは異なる著者を区別するためにアルゴリズムを組み、私たちの発見を評価するために統計的なプログラムを組みました。確率分析から、これらの文章が単独の著者によって書かれた可能性を排除しました」
16個の陶器の破片から、少なくとも6人の手によって文章が書かれたことが判明したのは、意義ある発見だ。これにより、ユダの軍隊では、識字率が高かったことが示された。物理学者エリエゼル・ピアセツキー氏は、読み書きができた人々の割合を正確に述べるのは困難だが、陶器からは社会のより低い階層の人でも読み書きができたことが示唆されていると述べた。
「私たちは、聖書の文章を書くことを可能にする教育的基盤の存在について、間接的な証拠を発見しました」とピアセツキー氏。「読み書きの能力は行政機関、軍、聖職者のシステムでの全てのレベルに浸透しています。読むことと書くことは、限られたエリートのものだけではなかったのです」
フィンケルシュタイン氏は、「ユダの陥落の後、ヘブル語の銘刻の生産は、次に広く識字されていた時代の紀元前2世紀まで長い空白期間がありました」と話す。このことは、紀元前586年ごろから200年の間にエルサレムで実質的な聖書の編さんがあった可能性を減らす。
しかし、研究者の中には懐疑的な者もいる。ニューヨーク・タイムズによると、テルアビブの近くにあるバル=イラン大学のエドワード・グリーンステイン教授は、「今日、聖書学研究でそのようなコンセンサスはありません」と述べた。「伝達のプロセスが、学者が考えていたよりもはるかに複雑だったのです」
全文は米科学アカデミー紀要(PNAS)のウェブサイト(英語)で読むことができる。