本紙で連載コラム「キリスト教から米大統領選を見る」を執筆中の青木保憲牧師(大阪城東福音教会)が代表を務めるJAG(Japan Association for Gospels)主催で、米国の音楽の中心地ナッシュビルのゴスペルシンガーを招いてのコンサートが、8日から16日まで、関西各地の教会を会場に連日行われ、多くの人が足を運んだ。(コンサートの様子はJAGのフェイスブックで)
このツアーは、青木牧師が2011年、東日本大震災が発生した後に渡米し、テネシー州のクライストチャーチを訪ね、震災支援と復興のために来日を依頼したのがきっかけで始まり、今年で5年目となる。今回来日し、パワフルでハートフルな歌声を聞かせてくれた、クライストチャーチのクワイヤーメンバー、ヴァネッサ・マドックスさんとサム・メアジックさんの2人に、音楽を通しての福音伝道活動について伺った。
2歳から教会で歌い続けてきたヴァネッサ・マドックスさん
これまでゴスペルシンガーとして、アイルランドやドイツ、オーストリア、ハンガリー、ルーマニアなどの欧州諸国だけでなく、中国や台湾、韓国などのアジア諸国も回ってきたヴァネッサさんは、テキサス州のペンテコステ派の牧師の家に生まれた。「2歳から教会や家で歌を歌っていたんです。それからずっと歌い続けています」と笑顔で語る。子どもだった1970年代、アフリカや中国の宣教活動から帰ってきた宣教師たちが、「あの地では誰もイエス・キリストを知らない」と言っているのを聞いた。中東ではキリスト教徒が迫害を受け危険な日々を過ごしている中、聖書を翻訳していると聞いて、とても心を動かされたという。そして、「米国ではどこでもゴスペルを聞けるのに。自分も何かをしたい」と感じた。「でも子どもの頃、まさか自分がゴスペルシンガーとして、Music Pastor(音楽の宣教師)になるなんて思いもしませんでした。神様が道を開いてくれたと思っています」と目を輝かせる。
ペンテコステ派のオーラルロバーツ大学(オクラホマ州)での学生時代には、共産主義体制が崩壊した東欧諸国などに大学が送り出していた宣教団に参加した。92年には、チャウシェスク体制が崩壊したルーマニアの都市ティミショアラで、政府の弾圧に抗議する人々が開いた追悼集会の中にいた。キリスト教が禁じられているアジアの独裁国を訪ねたこともあるという。内戦時代のミャンマーでは、パックパックを背負ってボートに乗り、ジャングルの難民キャンプを訪ねた。「カチン族の難民キャンプの人たちは、いつも紛争の恐れに捉われていることを感じました。そこで『イエス・キリストは真理であり、解放です』と伝えると、彼らが興味を示し、顔つきが変わっていくのが印象的でした」と語る。
「そこで伝えるのは、『ただ一人の神がいて、私たちを愛している』というメッセージです。日本に来た時も同じことを伝えています。そのことができなければ、観光に来た米国人と何も変わらないと思いますから」
「コンサートでただ歌を届けるだけではなく、礼拝として神様が一人一人に触れてくれることを起こしたいと思っています。そのために自分にできることは、心を開く最初の働きを起こすことだと思っています。難しい神学や学問ではなく、実際に自分をさらけ出して歌う姿を見せることで、一緒に福音を感じてもらい、それを通して神様に出会ってほしいと思っています」
その後、コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)のアーティストとして活動する傍ら、有名ミュージシャンのバックコーラスとして、バスツアーで全米を回った。そして20年前から「音楽の街」として知られるナシュビルに定住して活動している。しかし、音楽業界の中では、キリスト教と離れていき、神の臨在が感じられなくなるように感じ、音楽と教会での活動が一緒でなければならないと思うようになった。そして、ユナイテッド航空に勤める親友の協力によって、2008年から世界各地で音楽宣教ツアーやミュージック・ワークショップを行うようになったという。
ヴァネッサさんは、コンサートの後にはいつも、感動して何か力を受けたと言ってくれる人がいるのが喜びだと語る。「昨日(13日、京都)の夜のコンサートでも、若い女の子が歌を聞いていて、『神様に抱きかかえられて、子どもに戻ったような気持ちがした』と言ってくれたのが喜びでした」とも。
「神様がいる証しが4つあります。Healing(癒やし)、Peace(平和)、Joy(喜び)、Love(愛)です。それが目の前で起きることを願っています。私たちにできるのは、『ここに水がありますよ。この水を飲んだらきっと潤されますよ』ということを見せることです。それをきちんと飲ませてあげることは、日本やそれぞれの教会の牧師の責任と任務だと思います」
海外医療支援、MBA、そしてゴスペルで福音を サム・メアジックさん
サムさんは、ウェストバージニア州の牧師の娘として生まれ、幼いころから教会で歌とピアノに親しんできた。
「5人きょうだいだったのですが、父は、みんなが音楽に関わるようなことをするように育つのが希望でした」とサムさん。その後、11歳の時に家族で初めてのアルバムを作成、そしてきょうだい5人は現在、皆が音楽に関わる人生を送っているという。
大学はチャールストン大学(ウェストバージニア州)に行き、看護学の学位を取った。米国では教会や宣教団体が病院と提携して海外での医療支援活動を各地で行っており、サムさんもその一員としてメキシコでの医療活動に参加した。その後、ウェストヴァージニア大学(同州)のビジネススクールでMBAを取得。カリフォルニア州の病院での財務関係の仕事など経て、2015年からは不動産とインテリアデザインを学んでいるという。
「医療宣教からMBA、さらに不動産とインテリアデザインという経歴は、日本人の感覚からするとちょっとびっくりするかもしれません」とサムさん。「国際的な医療支援でも、現地の支援のために財務や経営、不動産・動産管理に関する知識が必要になり、宣教の働きの助けとなります。メキシコで医療宣教をしているときに、組織のCEOからこれらを学ぶよう後押しされたのもきっかけでした。大学で学んだことや取得した資格の知識を今、宣教に生かしています」。現在は、世界的な大富豪ウォーレン・バフェットが運営するバークシャー・ハザウェイ・ヘルスケア財団の不動産仲介業者も務めているという。
今回で来日2回目となるサムさんに、「日本の文化はいかがですか」と伺ってみた。「文化が素晴らしいです」とサムさん。そして「I love taking my shoes off!」という答えが。日本人が家で靴を脱ぐのを見ると、旧約聖書の出エジプト記で、神がモーセに靴を脱ぐように命じた記述を思い出すという。
神は言われた、「ここに近づいてはいけない。足からくつを脱ぎなさい。あなたが立っているその場所は聖なる地だからである」。(出エジプト3:5)
もう1つは、「人々がハグ、抱きしめられることに飢えているような気がします」とも。東日本大震災後から、サムさんの所属するクライストチャーチは毎年日本を訪れている。「地震で日本が悲しみ、苦しんでいるときに、ヤス(青木牧師)が米国の私たちのクライストチャーチに来て、『助けてほしい。ぜひ日本に来てほしい』と言ったときの情熱に、私たちの教会のダン牧師と信徒たちの心がつながり、動かされたのが、今の私たちの活動の始まりでした。その時に私たちの教会のダン牧師は、聖書のマケドニヤ人の記述を思い出し、日本にクワイヤーを派遣することを決めたそうです」
ここで夜、パウロは一つの幻を見た。ひとりのマケドニヤ人が立って、「マケドニヤに渡ってきて、わたしたちを助けて下さい」と、彼に懇願するのであった。パウロがこの幻を見た時、これは彼らに福音を伝えるために、神がわたしたちをお招きになったのだと確信して、わたしたちは、ただちにマケドニヤに渡って行くことにした。(使徒16:9〜10)
「それから5年、たくさんの新しい出会いが生まれました。クライストチャーチは宣教に対する思いが強い教会です。『助けてください』と言われたとき、問われるのは宗教ではなく、生きざまそのものです。そして、ゴスペルを通してしたいことは3つです。①傷ついた人の心を癒やしたい、②キリスト教の敷居を下げたい、③グローバルな友情を取り結びたい、ということです」
「それがあるから言葉も文化も違うところで、壁を壊して伝えていくことができるのだと思います。キリストの収穫は日本にもあると思います。私たちは神様に用いられたいという思いがあります。最初に来たチームは種を蒔(ま)きました。ヤスの情熱を受けて、これからも一緒に続けていきたいと思います。日本のことが大好きになっています。これからも、私たちの教会のクアイアーと一緒に毎年、日本に来たいと思います」と最後にサムさんは語ってくれた。
■ JAGからのお知らせ
JAGは、「来日し、日本に滞在するクリスチャン・ミュージシャンたちの活動を支援し、交流するためのボランティア・ネットワーク」として活動しています。来年以降も、米国からゴスペルシンガーを招いてのツアーを計画しており、メンバーや支援を募っています。ご支援くださる皆様のお心と共に、彼女たちの日本での必要を可能な限り賄えたらと考えています。どうぞ真心を形にしておささげください。よろしくお願い致します。
<振込口座>
銀行名:三菱東京UFJ銀行
支店名:出町支店
口座番号:普通預金 0196668
口座名義:JAG代表 青木保憲(ジャグダイヒョウ アオキヤスノリ)