米キリスト教出版社「クロスウェイ」は、英語標準訳聖書(English Standard Version=ESV)の訳文を、「今後は将来の全ての版で変更しないことを決定した」と、約1カ月前に発表した。しかし今度は、「その決定は間違いだったと確信」し、「訳文は定期的に改訂されることになるだろう」と述べている。
前回の決定の背景にあった目標は、「ESVの訳語を固定化し、来るべき世代においても用いられるものとなるよう、読者にサービスを提供することだった」と、クロスウェイは声明の中で述べている。「私たちの願いは、聖書朗読、聖句の暗唱、説教および典礼のニーズに世代を超えて世界的に役立つ、固定化された標準的訳文が存在することでした」
しかし、「その決定は間違いでした」と、クロスウェイのレーン・T・デニス会長兼最高責任者(CEO)は述べた。デニス会長は「私たちはこの判断ミスにより、ESVの読者に懸念を持たせたことを謝罪するとともに、私たちが進むべき道だ考えていることについて、説明したいと思っています。また何にもまして私たちが願うのは、主の御心にかなうことを行うことです」
クロスウェイの理事会とESV翻訳監督委員会は今年の夏の初め、ESVの訳語は「著作権が存続する限り」変更しないことを全会一致で決定し、ESVは「1998年のクロスウェイの理事会によって権限を与えられて開始された17年以上に及ぶESV翻訳監督委員会の包括的な働きの頂点だ」と述べていた。
この決定は52単語の改訂を行った後に行われ、「ESVの訳文への非常に限られた数の変更であり、このような変更はESVの訳文の正確さ、精密さ、理解をさらに高めるものです」とされていた。
しかしクロスウェイは現在、次のように述べている。「その目標を達成する手段は、訳文を恒久的に確立することではなく、むしろ時の流れとともに、聖書本文の(考古学的)発見や英語(そのもの)の変化など、聖書に関わる学問的現状を反映する訳文として定期的に改訂を継続することです」
一方、改訂は「最小限かつまれ」になる可能性が高いとし、「御言葉に忠実であるには、原則的に改訂に対してオープンである必要があります。クロスウェイの理事会とESV翻訳監督委員会は、そのような改訂は妥当であると以前から考えております」と言い添えた。
クロスウェイは声明で、ESVの序文を引用している。序文には次のようにある。「私どもは、完璧な聖書翻訳が存在しないことを知っております。また、神がご自分の栄光のために、不完全で不十分なものを用いることも知っております。ですから私どもは、この聖書が有用なものとなるよう祈り、多くの助力があったことへの感謝を表明し、神がこのような記念すべき取り組みを託してくださった驚きを覚えつつ、三位一体の神とその民の前に、私どもが成し遂げた働きをおささげします。ただ主にのみ、栄光がありますように!」
一部の聖書学者らは、当初の発表が行われる以前に、訳語の改訂に懸念を表明していた。
米ノーザン・バプテスト神学校のスコット・マックナイト教授(新約聖書学)は、クリスチャンポストに次のように語っていた。「創世記3章16節の新しい訳文は、夫婦間にある仲違い、疎外や摩擦が、エバに対する呪い(の結果)であり、神が定めたものであることを示唆している」「この聖句をそのように訳すことにより、ESVは、夫と妻の中に歪んだ性質があるという印象を生み出している」
マックナイト教授は、一部の人はESVが、妻は反抗的で夫は権威主義的なものとして描写していると考えるだろうと付け加え、「それは、潜在的に危険で残念な解釈だ。というのは、夫は妻を支配してもよいという誤った既成概念を、一部の心無い男性に抱かせることになるからだ」 と述べていた。
ペンシルバニア州ハットフィールドにある聖書神学校のキャロリン・カスティス・ジェームズ教授も、教会指導者の連携を促進する団体「ミッショー・アライアンス」への投稿の中で、次のように述べていた。「ESVの不自然な訳文の故に、教会でESVを使っている牧師たちは、信徒らによる聖書交読に割って入り、この箇所の実際の意味は『兄弟姉妹』だと説明していると聞いております」