1611年に刊行され、最も名高い英語訳聖書として現在でも用いられている「欽定訳聖書」(King James Version=KJV)の草案が、米国の学者によって発見された。
欽定訳聖書の草案を発見したのは、米ニュージャージー州のモントクレア州立大学で英語の准教授を務めるジェフリー・アラン・ミラー氏。ある随筆について研究していた際に草案を発見したという。
米クリスチャンポストとのインタビューでミラー氏は、欽定訳聖書の翻訳者の一人であったサミュエル・ウォード(1572〜1643)が書き残した文書の中に、この初期の草案を見つけたと語った。この文書は、英ケンブリッジ大学に所蔵されていたという。
この草案は、「MSWard-B」という文書の中から発見されたが、その時のことをミラー氏は、「私ははっきりと、(欽定訳聖書と)関連があり、未確認の書簡のようなものを見つけてしまったのかもしれないと思いました」と語った。
「欽定訳聖書の草案がこのような形で発見されるとは、誰も思ってもいなかったことでしょう。今回の発見はいろんな意味で予想外の出来事でした」
「MSWard-B」はもともと、聖書注解を含む文書とされていたが、何が収められているか詳細は収集監修者もほとんど把握していないとされていた。
ミラー氏は、草案はウォードのものであることに何の疑いもないと話している。「サミュエル・ウォードの文書ではないかもしれないという議論の余地は全くありません。草案は、サミュエル・ウォードが所有するノートの中にあったのです」
「私が欽定訳聖書の草案だと気付く前から、このノートがサミュエル・ウォードのものであることは、われわれの間では長い間知られてきました」。ミラー氏はまた、明らかにノートの筆跡がウォードのものであること、そしてそれが非常に下手な字であることを付け加えた。
1611年に刊行された欽定訳聖書は、最も広く読まれている英語の本の一つとされている。54人の学者が共同で翻訳作業を行い、それよりも前にジョン・ウィクリフ(1320頃〜84)が行ったより初期の聖書の英語翻訳の努力により生まれ、そのいくつかの言葉やフレーズは、現代英語においても慣用表現として残っている。
「現在は欽定訳よりも、近年出てきた新しい訳の聖書の方が売れていますが、相変わらず欽定訳を好む読者の数は、『バケツの一滴(=drop in the bucket)』の逆です」。「drop in the bucket」は、日本語でいう「雀の涙」に相当し、ごくわずかなものの例えを表す。つまり欽定訳聖書を好む読者の数は今も多いということだ。
「『drop in the bucket』という表現は、イザヤ書40章15節に出てきます。実際、私たちが今日使用する一般的な慣用表現の多くは、元をたどると欽定訳聖書にたどり着くのです」。これは、米CBSのチャールズ・オズグッド氏が欽定訳聖書についてコメントした内容だ。
他にも聖書由来の英語の慣用表現には、「see eye to eye」(「意見が一致する」の意、イザヤ52:8)、「wits’ end」(「途方に暮れて」の意、詩編107:2)、「fight a good fight」(「健闘する」の意、1テモテ6:12)、「the powers that be」(「当局(者)、その筋」の意、ローマ13:1)などがある。
ミラー氏は、今回発見された欽定訳聖書の草案によって研究が進み、さらなる興味が増し加えられていくことを期待していると語った。