【CJC=東京】聖書翻訳で知られる大組織「ウイクリフ聖書翻訳協会」(本部=米フロリダ州オーランド)が、イスラム圏諸国向けにアラビア語へ訳出する聖書で、「父、子、聖霊」の三位一体という重要なキリスト教の教義を外そうとしたことに批判を受け、再検討を進めている。
批判は、「神」を三位の1位格とする際に、「息子」の代わりに「メシア」を、「父」の代わりに「主」を使うことが、教義をひどくゆがめる、と言うもの。
イスラム教徒と広範に協働するキリスト教団体「ホライズンズ・インターナショナル」会長のジョージズ・ハッスニー牧師は、「もしも『息子』を外すなら『父』も外さなければならないし、そうなると、創世記からヨハネの黙示録まで聖書全体の筋が解体される」と言う。同氏自身もアラブ語への訳出者。
ウイクリフ側は、翻訳作業に論議を避けることはしなかったし、福音を最も正確に反映する言葉を選んで来た、と主張する。「イスラム教徒を不快にさせない翻訳をしようとしている、と言われるが、それは本当ではない。神の言葉の正確な翻訳に取り組んでいるのだ。それが最高の価値なのだ」とウイクリフのボブ・クレソンCEOは言う。
聖書としてまとめられた古代の文書集を翻訳するということは決して容易ではない。ヘブル語やギリシャ語の原典を新たな国に持ち込んだキリスト教の初めの数世紀からジェームズ王版(欽定訳)のシェークスピアが用いた言語を現代の読者にも理解しやすくすることにまで、聖書の用語をめぐる議論は絶え間がない。
この3月、ウイクリフは、翻訳方策に対して世界福音同盟(WEA)が独自の評価を行うことに同意した。それはウイクリフと関連団体が「神の子」と「父なる神」という用語を不当に置き換えているかどうか判断するために専門家を任命する、というもの。
この決定は、訳語を非難する批評家が増えてきたのを受けて、キリスト教神学を根本的に変えるものだという論争を避ける試み。論議は、インターネット上での会議や大組織からの懸念に配慮を求めるオンラインの請願にまで広がっている。
ペンテコステ派では最大の「アセンブリーズ・オブ・ゴッド」は、ウイクリフとの長年にわたる関係を見直す、と発表している。
様々な教会や宣教団体と広範に協働しているウイクリフとしては、WEAのパネルが評価を発表するまで、論議を呼ぶ翻訳を公表しない方針。
クレソン氏は、「神聖な家族の用語」として学者には知られている「父なる神と神の子」が文化によっては翻訳しても意味がない、と言う。イスラム教の教えでは、神が人間の家族と同様な関係に入れるという考えを拒否するので、そのような文化にある人たちは、この訳語を即座に回避するだろう、と例を上げた。