牧師になり、宣教で海外へ行く機会も多くなったが、聖地へは行ったことがなかった。そればかりか、聖地旅行の話を聞いても、「聖地は心の中にあるもので、イスラエルへ出かけるのは、異教の巡礼のようで意味がない」といつも豪語していた。
一九八〇年夏、夏目志郎氏の講演会で東京へ行った時、鈴木慎太郎氏に出会った。伝道師だった彼は、訪れたイスラエルに惚れこんだ。そして聖地旅行を生涯の仕事にしようと決心し、エマオ会という旅行会社を設立していた。名刺を交換するなり、「榮牧師、聖地に行きたいですか?」といきなり話しだした。私は「まあ、聖地は心の中ですから」と答えた。鈴木氏はこちらの答えを無視して、「もし行くなら今年ですか?来年ですか?」「夏ですか?春ですか?」とたたみかけ、聖地のすばらしさをアピールする。真夜中に家に電話してきてまで、聖地への旅を勧める。
一九八一年の正月、彼に出会って半年後、初めての聖地旅行に出かけることになった。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。(Amazon:天の虫けら)