葬儀を入り口とした新しい日本宣教の在り方を実践するブレス・ユア・ホーム株式会社。同社の代表を務める牧師の広田信也氏に、新しい日本宣教の在り方と、同社が果たすべき役割について聞いた。
「タテ社会」に所属する日本人
個人の属性を重視する「ヨコ社会」の欧米に対し、「タテ社会」といわれる日本では、所属すなわち「場」を重視する。場で共有される絆は強く、家族・親族だけでなく、会社や学校においても場を共有する強いつながりが存在する。
このタテ社会の一員であることは、日本人にとって大切なことだが、絆を維持するために気遣いが多く、共同体維持のためのストレスが大きい。そのため、家族・親族、会社あるいは学校以外にもう1つの「タテ社会」に所属することを勧められても、その気になれないのが実情だ。
また、欧米のヨコのつながりを持つ共同体が日本に持ち込まれ、日本人によって構成されていくと、その内部に場を共有するタテのつながりを構成する。例えば、そのように構成された会社では、個人がどのような仕事をするかよりも、会社の一員であることの意識の方が高く、強い連帯感が育ちやすくなる。
こういった連帯感は、高い技術と品質を生み出すが、長時間労働を誘発し、効率が悪く、高コスト化に陥る。日本特有の過労死もこのような構造と決して無関係ではない。
「タテ社会」化する日本の教会
欧米のスタイルで始まった日本の教会もその影響を受け、「信仰」によって得られるヨコのつながりの中に、霊的な親子のような強いタテのつながりが作られ、教会という場を共有する強い共同体となる。
日本の会社同様、同じ場を共有する教会員は、互いを支え合う良い関係を構築するが、それとともに教会内での仕事が増え、宣教活動に関わる余裕がなくなり、新しい仲間が増えない傾向に陥ってしまう。いわゆる敷居の高い教会を創り出す。
欧米の教会が、信仰というヨコのつながりだけで強い絆を持ち、宣教によって新たな信仰を持った人を仲間に加えやすいことに比べ、日本の教会が成長しないのは、「タテ社会」を基本とする日本の共同体の構造に原因があると考えられる。この構造は、絆の強い日本の共同体全てに共通であることから、教会の努力だけでは解決し難い課題である。
成長している教会の特徴
それでも、日本全国を見渡すと成長している教会もある。注意深くそれらの教会を見ると、絆の強いタテの関係を持つ小さなグループが複数存在していることに気付く。
これらのグループは、それぞれが個別の特徴を持っているため、教会に来た人は自分に合ったグループを選ぶことができ、そこでの人間関係の中で信仰が成長することになる。教会全体としてのつながりは、ヨコの比較的弱い関係が存在するだけなので、過剰な気遣いをすることなく教会としての場の意識も共有できる。
また、小さなタテの関係にあるグループだけに所属する人や、全体の弱いヨコの関係だけに所属する人も存在し、自分に合った方を選ぶことができる。
しかし、こういった構造は、教会が成長するための1つの方向を示しているが、既存のタテ社会に組み込まれた日本人の全てに適応できるものではない。家庭や職場といった自分の所属する「場」を超えて、新しい関係を構築できる日本人のほうが少ないだろう。全ての日本人に福音を伝えるためには、別の方法を提案したい。
全ての日本人に福音を伝えるために
タテ社会に組み込まれた日本人全てに福音を届ける宣教の仕組みの特徴として、① 未信者共同体の絆を強める手助けを提供する、② 複数の地域教会に所属する信仰者が協力して未信者共同体に寄り添う、③ 未信者共同体の中に教会(祈りの場)が形成されることを目指す、の3点を挙げる。いずれも既存の未信者「タテ社会」の絆を強めるための働きである。
①では、未信者共同体の絆を強めるために大切にしている仕組みに寄り添うことが有効になる。そのために、未信者の求める助けを提供する形を取る必要が生じ、サービスを提供する組織的な活動、例えば一般企業など教会以外のサービス提供の可能性が生じる。
②③のためには、複数の地域教会に所属する信徒の連携による働きを効率よく束ねる必要があるが、背景に「タテ社会」化した教会や教団があると動きにくい状況がある。透明性のある動きが要求される。
教会の敷居を低くするために
日本のタテ社会共同体は、互いの絆を深めることに熱心であり、常に良い助けを求めている。タテ社会化している地域教会も同じ傾向にあるが、宣教に志のある教会ならば、同じ地域の未信者が助けを求めているという情報に接した際には、迅速な対応ができる可能性がある。いざという時の迅速な対応は「タテ社会」の特徴でもある。
ブレス・ユア・ホームでは、地域教会の人材に対し、助けを必要としている未信者の情報を整理して伝達し、彼らが適当な助けを与えることができるようにサポートする役割を担っていきたいと考えている。
例えば、核家族化や高齢化の進む現代社会では、高齢者の生活支援、死への備え、看取り、葬儀、家族へのグリーフケア、家族への支援など、クリスチャンでなければできない助けが求められている。
これらの助けを届けるために、ブレス・ユア・ホームが仲介となり、各地域教会の人材を有効に組み合わせ、適当なサービスとして未信者に提供するなどだ。未信者家庭にとって、宣教的なクリスチャンが関わることで福音に触れるチャンスが増すことになるが、基本的に株式会社のサービス提供を受けているだけなので、敷居の低い入り口となる。
葬儀からの日本宣教
日本では、長い間仏教式の葬制文化が支配的であったが、核家族化、檀家制度の衰退などによって、自由に葬儀の形態を選びたいという風潮が強くなってきている。しかしながら、宗教色を排除した無宗教葬、自由葬、音楽葬の割合がここ数年変化が見られず、このことは、「死」という現実に直面した人々にとっては、慰めを得る何らかの宗教的な手段が必要とされていることを示している。
潜在的にはかなりの日本人がキリスト教葬儀を望んでいると考え、ブレス・ユア・ホームでは、誰であってもキリスト教葬儀を選択できるように、広報活動を行い、レベルの高い葬儀司式のできる牧師と連携し、高品質のキリスト教葬儀を迅速に提供できる仕組みを作っていくことを考えている。
その際重要となるのは、葬儀の時だけでなくその前後にも目を向けることだ。生前に連絡が入った場合は、お見舞いなどを通し家族を励まし、葬儀の後もグリーフケアに徹し、納骨式や記念会に積極的に関わる。家族からの信頼が増せば、現在神式で行われている生前の冠婚葬祭を牧師が執り行う可能性も見えてくるはずだ。
目指すべきは教会(祈りの場)を作ること
ここで注意すべきは、家族・親族の「タテ社会」に属する各個人を、教会共同体の「タテ社会」に組み込むことを求めすぎないようにすることだ。既に「タテ社会」に組み込まれている日本人を、教会共同体の「タテ社会」に組み込むことに熱心なあまり、家族・親族の絆を損なう結果を招いてはならない。目指すべきは、家族・親族の絆が強まり、その中に教会(祈りの場)が作られることである。
このように、葬儀に関わった家族・親族との信頼関係が増し、祈りの場が増えていくと、実際の生活における助けの必要が見えてくる。特に配偶者を亡くした高齢者には、なんらかの助けをサービス提供という形で届けられる可能性も出てくる。死を迎えようとしている人がいる家族には、寄り添って助けを与え、葬儀から続く故人との新たな関係作りに積極的に関わっていきたい。
以上の提案は、未信者が信仰を持って、地域教会に組み込まれていくことを期待する現状の宣教方法を否定しているわけではない。その方法でなければならない人も多い。しかし、日本の全ての家族・親族を対象として、福音をあまねく届けるためには、今回の葬儀を起点とした宣教の手法が極めて有効に働くと信じている。