旧約聖書に登場するヤコブの息子ヨセフと、彼が着ていた「そでつきの長服」にまつわる物語をベースにしたミュージカル「ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート」が13日、東急シアターオーブ(東京都渋谷区)で初日を迎え、上演前のレッドカーペットに、応援サポーターを務める俳優の石丸幹二や、片岡鶴太郎、久野綾希子、パックン、小椋ケンイチが登場。観劇後には囲み取材に出席し、興奮冷めやらぬ様子で感想を語った。
本作品は、「オペラ座の怪人」「キャッツ」「エビータ」など、世界中で愛され続けているミュージカルを作曲した、巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーの処女作で、1973年に英ウェストエンドで上演されて以来、トニー賞7部門、ローレンス・オリビエ賞6部門でノミネート、セットデザイン賞受賞など、輝かしい称賛を浴び、まさにミュージカルの元祖ともいうべき作品。
日本では、2011年に初の来日公演が行われたが、期間中に東日本大震災が発生し、途中で公演中止となってしまっている。2度目の日本上陸となる今回は、今年度のトニー賞で「ハミルトン」で振付賞を受賞し、今米国で最も注目を集めている振付家のアンディ・ブランケンビューラーが演出・振り付けした新バージョン。テンポの良い展開で、ストリート、タップ、バレエなどのさまざまな要素を含んだ振り付け、楽曲は時にラテン風、時にロックンロールと多彩でポップな旋律、あらゆる味わいを鮮やかに楽しめる作品に仕上がっている。
日本人にはあまり馴染みのない旧約聖書のヨセフ物語。クリスチャンにとっては「聖書に忠実なのか?」、クリスチャンでない人にとっては「話しについていけるのか?」とそれぞれ少し不安に思うところもあるかもしれない。ストーリーは非常に聖書に忠実だ。いくらか施されている脚色も十分許容範囲。ただ!唯一納得がいかないのが、ヨセフがポティファルの妻の誘惑にのってしまうという場面。彼の名誉のために「ヨセフは冤罪で牢獄に入れられた!」と思わず客席から立ち上がってしまいたくなるし、初めてヨセフ物語に触れる人にヨセフの魅力が半減して伝わってしまうのが残念なところ。
だがその点を差し引いても、主人公のヨセフ、父親のヤコブに他の11人の兄弟たち、エジプトのポティファルとファラオ、その給仕役と料理役と、聖書に登場する人物がそのままにミュージカルのキャラクターとして舞台に登場するのは、それだけでわくわくする。特に、ステージに一同にそろう12人兄弟は圧巻で、一人一人の個性溢れる表情や動きを、必死で目で追うのが楽しい。
最初から最後までストーリーテラーがおり、たくさんの登場人物も、次々と展開する場面も大変分かりやすく、まるで大人のための洗練された絵本を見ているような気持ちになる。さらに、実際に夢で見たことが時がたって実現するという、ヨセフ物語の中軸を、「どんな夢でもかなう」という全ての人に向けたメッセージへとつなげていく巧みさには、思わずうなってしまうほどだ。
本公演の応援サポーターを務める石丸幹二は観劇後、「こんなに気持ちよく客席から立ち上がれるとは思っていなかった。ステージからキャストがいなくなった後も、帰りたくなくてずっと手拍子を打っていた。あっという間に終わってしまって、名残惜しさがはんぱでなかった」。ミュージカル俳優としての立場から、「舞台をこなせている人が軽く歌うので素晴らしさが伝わるが、口ずさんでみると一緒に歌えないくらいに難しいナンバーが目白押しだった。いろいろなリズム体があったが、それぞれの要素を得意とする人たちがキャスティングされているので、キャストの味を出して歌いこなしている姿に圧倒した」と感想を話し、新バージョンの演出については「演出も振付もブランケンビューラーが手掛けているので、1つにぎゅっとまとまった一貫したショーだった。夢の世界が舞台のあちらこちらに映し出され、見ている人の心をノックする、夢広がる斬新で凝った演出」と語った。
学生時代にファラオ役を演じたことがあるというパックンは、「最高。私の日本語のレベルでは最高を上回る表現を知らないので、あれば使いたいくらい」と絶賛。ミュージカルの中で一番好きな作品で、これまでも数え切れないほど見てきたというが、「今までにないくらいに演出の幅が広く、何度も見たくなるほどに奥深い。僕の年齢と同じくらいの歴史があるのに、全く新しく、はんぱなくすごい。9歳と7歳の子どもと一緒に来たが、子どももずっと笑っているし、妻もずっと笑顔だった。今までの中でも一番好きな演出」だといい、一番好きな楽曲を聞かれると、「I closed my eyes, drew back the curtain」と歌い出すほどに上機嫌だった。
自身もウェバー作品に出演した経験のある久野綾希子は、91年に本作品を見たそうで、「曲は変わっていないのに、初めからすごいテンションで、別の作品を見ているようで驚いた」と目を丸くさせ、「当時から変わらない、ウェーバーの楽曲の幅広さとその魅力にあらためて気付いた。ウェバー作品には、『ジーザス・クライスト・スーパースター』のヘロデ王のように、全ての人の心をさらっていく男性が必ず登場するが、この作品のファラオが元祖なんだと感じた」と話した。
ほとんど上半身裸だったヨセフの脱ぎっぷりに目が奪われたという小椋ケンイチは、「僕たちオネエはテクニカラーのコートを身をもって着ているような状態なので、普通の人よりもちょっと夢を持っていいのかな、まだまだ大人になっても夢を持って生きていけたら楽しいだろうなと勇気付けられた」と興奮気味。ヘアメイクアップアーティストとしての視点から、「聖書のさらに昔の話でありながら、現代風の洋服のアレンジであったり、明らかにそのまま渋谷を歩けるような格好の人もいて、昔の話なのにすごく今時にアレンジしてるあるのが見やすくなっている理由だと思う」とも話し、「昔の話、ミュージカル、英語というと距離を置いてしまう人も多い中で、全くその距離を感じさせなかった」と感想を語った。
さまざまなミュージカルや芸術に造詣の深い片岡鶴太郎も「ストーリーも分かりやすく、映像と色がきれい。夏休みにファミリーで楽しめるミュージカル、ご機嫌なステージ」と太鼓判を押した。
■ 東急シアターオーブ4周年記念ミュージカル「ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート」
日程 : 2016年7月13日(水)~24日(日)
会場 : 東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11F)(東京都渋谷区)
料金 : S席9800円 / A席8000円 / B席6000円 <チケット発売中>
主催 : Bunkamura / テレビ朝日
後援 : WOWOW
※ 生演奏・英語上演・日本語字幕あり。未就学児入場不可。
公演の詳細は、公式サイト。問い合わせは、Bunkamura(電話:03・3477・9999)まで。