ノルウェー中部の都市・トロンハイムで6月22日から開かれていた世界教会協議会(WCC)中央委員会が、多彩なプログラムを経て28日に終了した。同委員会は、2018年3月8日から13日まで、タンザニア東北部の都市・アルーシャで世界宣教会議を開催することを承認した。WCCが29日に公式サイトで伝えた。
同委員会はまた「イスラエル―パレスチナ紛争と平和プロセスに関する声明」「強制立ち退きの危機に関する声明」「宗教と暴力に関する声明」という3つの公的声明とともに「西パプアにおける人権状況に関する覚書」「人身売買と移民の密輸に関する覚書」を採択し、公式サイトで発表した。
同委員会は「イスラエル―パレスチナ紛争と平和プロセスに関する声明」で、WCCが17年に国際エキュメニカル会議を開催することを勧告した。
また「強制立ち退きの危機に関する声明」では、世界各国に対し「人権法や難民に関する法律、とりわけ庇護(ひご)の権利を含む、国際法の下における自らの義務についての文言と精神を尊重する」よう呼び掛けた。
そして「宗教と暴力に関する声明」では、宗教と暴力に関する自己批判的な内省を呼び掛けるとともに「宗教と暴力の文脈における平和構築」を17年の特別なテーマの焦点として定めた。
さらに「西パプアにおける人権状況に関する覚書」では、1969年からインドネシアの支配下に置かれてきた西パプアの人権状況が「悪化」しつつあるとして、加盟教会の連帯を呼び掛けるとともに、国際エキュメニカル代表団による連帯のための西パプアへの訪問をできるだけ早く企画するよう要求した。
一方、「人身売買と移民の密輸に関する覚書」で中央委員会は、人身売買と移民の密輸が「現代における奴隷制をなしている」として、加盟教会に対し「私たちの宣教の各分野において、この課題に対する挑戦に加わり、福音に促されて、それらの意識化と予防に貢献するよう」強く求めた。
それからWCCは27日、700億米ドル(約7兆円)の財政危機に陥っているプエルトリコのための連帯と行動を呼び掛けた。
そして同日、中央委員会は加盟教会に対し、英国のEU離脱を受けて、英国と欧州のために祈るよう呼び掛けた。
他にも、同中央委員会は25日、コロンビアで政府と革命軍が23日にハバナで内戦を休止させた歴史的な合意を歓迎する声明文を採択した。
また、20日から2日間にわたり、和解のプロセスと先住民族に関する会議が開かれた。「都市の中心部や太平洋の小さな島々、山岳地帯や田舎町から旅をしてきた170人を超える先住民が、ノルウェーにも住む先住民族サーミの伝統的な土地から流れる川の河口で今週集まった。『和解のプロセスと先住民族:真実、癒やしと変革』と題する彼らの会議には、WCC中央委員会との関連で、20数民族を超える先住民族の社会の代表者たちが集まった」などと、WCCは23日に公式サイトで伝えた。
中央委員会は、西パプアの先住民族やサーミを含め、不正義の現実に直面してきた先住民族の「真実、癒やしと変革」を鍵となるテーマとした同会議の声明文を受け取り、推奨したという。
また、WCCは29日、WCC元副総幹事で正教徒のゲオルギオス・レモポウロス氏が30年にわたるWCCとの関わりを回想する記事を掲載した。
さらに、ロシア正教会アラパエフスクおよびカメンスクのメソディウス(コンドラティエフ)主教は、東欧と中央アジアの諸教会が力を合わせてエイズを克服しようと、「エイズウイルス(HIV)は招きであり、呪いではない」と述べ、エイズが持つ霊的および道義的な役割についてのメッセージを伝えた。WCCが27日に公式サイトで伝えた。
一方、WCCは同日、信仰に基づく団体による地域での活動がエイズを終わらせる鍵であるとする記事を公式サイトに掲載。もっと多くの人々にエイズ検査を受けてもらって治療を受けてもらい、病人を気遣い、自らの気遣い方を人々に分かってもらうのを助けることがそれらの団体の務めであるとした。
その例として、南部アフリカ・メソジスト教会(MCSA)保健デスクや南部アフリカ・カトリック司教協議会「孤児および脆弱(ぜいじゃく)な子どもたちプログラム」(OVC)による草の根の活動が重要であると伝えた。
27日にはまた、中東に関する基調講演を行ったレバノンのタレク・ミトリ氏(アメリカン大学教授、ギリシャ正教会アンティオキア総主教庁信徒)が、中東政治の公的空間におけるキリスト教徒としての自身について語ったことが、WCCの公式サイトに掲載された。
WCCの元プログラム管理職やリビア担当国連事務総長特別代表を務めたミトリ氏は、キリスト教徒としての自らのアイデンティティーが自らに対する人々の期待にどんな影響を与えるのかを知っていると話し、政治や外交、そしてWCCスタッフの仕事を通じて、公的な問題について自分が何を言おうか、また何を言うべきかについて固定観念を持つ人々からの反応を統御することを学んだという。
WCCはミトリ氏を含む全体会合が行われた25日、「中東に希望はあるのか?」と題する報告記事で「戦争、民族紛争、何百万人もの難民、そして悪化する人道状況は、中東に関する議論の厳しい背景を示している」と、WCCの公式サイトに記した。
27日には常議員会の改選が行われ、11人が新しく選出された。また、アパルトヘイトへの参与や支援を理由に1962年にWCCから加盟資格の停止を受けていたオランダ改革派教会(DRC)がWCCに復帰することになった。DRCは1986年にあらゆる形の人種差別を拒否し、全ての信者に教会員としての籍を開いていた。
WCC中央委員会のアグネス・アボウム議長は、「設立当初の加盟教会の1つであり、今やアパルトヘイトの終結から1世代を経て、全ての諸国民のために正義の未来を築く協力者であるオランダ改革派教会を、この交わりに再び迎え入れることは特別な喜びです」などと語った。
その他、中央アフリカ長老教会(CCAP)のブランタイヤ大会(南部アフリカのマラウィ共和国南部)と北東インド・バプテスト教会協議会(CBCNEI)も新たに加盟した。
中央委員会の全体会合では、子どもの権利のための宗教共同体による支援が議論された。ジンバブエのマシンバ・クチェラ氏(WCC国際問題に関する教会委員会委員)は、同教会委員会が「子どもに優しい教会」のための3つの原則を補強するしっかりとした神学的な基礎に関心を持っていると説明した。これらの原則とは、
1. 子どもたちを保護し養う上で何世紀もの間、私たちが子どもたちを通じて受け取る多くの賜物と教会が演じる役割を祝うこと。
2. 子どもたちの生活や、彼らの基礎的ニーズに取り組む私たちの失敗における多くの傷を見舞うこと。
3. 不正義を正義の行いへと変える共同の取り組みに参加すること。
を指す。
中央委員会はまた、28日、宣教と伝道における里程標(りていひょう)となった重要文書「多宗教世界におけるキリスト者の証し:信仰の実践のための提言」(本紙による日本語全訳はこちら)が5周年を迎えたのを記念した。
それから、この中央委員会の会合では、WCCの今総会期で強調されている「正義と平和のための巡礼」における青年の役割があらためて認識された。「青年は明日の未来の指導者たちではない。彼らは今日の指導者たちであり、彼らは恐れることなく、自らの社会で正義と平和のための努力を指導するのです」と、世界キリスト教コミュニケーション協会(WACC)の職員であるアレージ・ラシド氏は28日、WCCの公式サイトで強調した。
中央委員会では、25日に行われた朝食会で、主催団体である「全アフリカ・女性エキュメニカル・エンパワメント・ネットワーク(PAWEEN)のアンジェリク・ウォーカー・スミス氏をはじめとする女性の神学者たちが、教会の指導者層における女性たちの体験談は全アフリカの女性の指導者の新しい世代を形成するために不可欠だと語り、教会で女性たちが力をつけるためには神学教育が鍵だと強調した。
PAWEENは、WCCの中にいる全アフリカ神学者や女性信徒・聖職者たちのネットワーク。WCC中央委員であるウォーカー・スミス氏は、23日にWCCの公式サイトに掲載された記事で「グローバルなエキュメニズムにおいて、全アフリカの女性たちのリーダーシップを認識すべき時です」と語った。
その記事によると、グローバルなエキュメニカル運動において、アフリカの女性たちは1つの勢力をなしてきたが、彼女たちの貢献はいまだによく認識されていないという。
WCCによると、米国女性の教会指導者であるシャロン・ワトキンス牧師・博士(ディサイプルス派)は、世界のエキュメニカルな指導者たちの顔ぶれが1954年と比べて変わったと述べ、今日における女性の役割を強調した。
その年に米国のエバンストンで開かれたWCC第2回総会の写真が示すところでは、ダークスーツとネクタイをまとった男性たちが列をなし、そのほとんどが白人だったという。「これは2016年のWCCです」とワトキンス牧師・博士は語った。「私たちは力強く、才能を与えられた女性なのです」
今回の中央委員会会合には、1948年にアムステルダムで開かれたWCC第1回総会に記者として参加したペデル・ボルゲン氏(88)も出席した。「アムステルダム(総会)にいた全ての代表者たちのうち、今も生きているのは私1人だけだと思います」と、ボルゲン氏は語った。
中央委員会からは、WCCのオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事が、正教会聖大会議にあいさつのメッセージを送付した。同総幹事は同会議の初めに行われた聖神降臨祭の祝祭に参祷し、祈りと支援をささげたという。「私たちのエキュメニカルな群れは正教会から多くの霊的な賜物を受け取ってきた」と同総幹事は述べつつも、「私たちはそれらを認識していないことがとても多い」と語った。
一方、分裂しているウクライナ正教会のキエフ派とモスクワ総主教庁系の代表者2人が共に同委員会を訪問し、霊的生活や社会的緊張、そして同国の戦いに関する日々の課題を報告した。WCCが26日に公式サイトで伝えた。
24日に行われた同委員会の全体会合では、「キリスト教の一致を求めるエキュメニカルな探求の現状とは何か?それは正義と平和のための活動とどういう関係があるのか?そしてこの文脈において私たちは教会について何を言えるのか?」といった問題が話し合われ、教会が持つ不可欠な重要性が再確認されたという。
中央委員会の最初の全体会合では、「正義と平和の巡礼」について、またその巡礼から学ぶ時間が持たれた。「励まし、霊的な促し、そして体験談が全体会合の議論を活気づけた」と、WCCが23日に公式サイトで伝えた。
一方、24日には、WCC宣教・伝道委員会と英国の出版社であるレグヌム・パブリッシャーズ(Regnum Publishers)が今年に共同出版した英文の新刊書『Ecumenical Missiology: Changing Landscapes and New Conceptions of Mission』(エキュメニカル宣教学:変化する眺望と宣教の新たな考え)の出版記念行事が行われた。
そして同日夜には、1715年に建てられたトロンハイムのバッケ教会で礼拝が行われた。WCCはまた、22日、公式サイトに「聖オラフの道で、過去を再び訪れつつ、(加盟)諸教会の未来を心に描く」と題する記事を掲載。「オスロの古い町からトロンハイムの二—ダロス大聖堂に至る長い小道である聖オラフの道は、500年間巡礼者たちであふれ、宗教改革まで重用された人気の道であった。それは1997年に修復され再開された」と紹介した。
中央委員会の参加者らは、23日の夜、ノルウェーの夏至の休日である「ヨンソク(洗礼者聖ヨハネの前夜祭)」を迎え、山でたき火をし、沿岸部で喜びの祝祭を行った。
中央委員会ではノルウェー文化大臣のリンダ・ホフスタット・ヘレラント氏が、「この会合は、私たちがより多く必要としているものの象徴です。すなわち、境界線を越えた、より多くの対話と交わりです。それによって私たちは、変革と運動を創り出すことができるでしょう」と語り、信仰に基づく変革の可能性をたたえた。
中央委員会の会合で受け入れ役を務めたノルウェー国教会のヘルガ・ハウゲランデ・ベイェフグリーエン総監督は、トロンハイムで開かれたWCC中央委員会の会合は同教会への「賜物」となったと語った。28日、WCCが公式サイトで伝えた。
ノルウェー国教会で最初の女性総監督であるベイェフグリーエン総監督は、自らが賛成している同性婚など論争のある問題について、それに反対する仲間の見方に尊重を表しつつも、同時に自らの立場を明らかにすることを学ばなければならなかったと述べたという。WCCが25日に公式サイトで伝えた。
トロンハイムで牧師を務めている同教会のマリアンヌ・H・ブレッケン氏は、24日にWCCの公式サイトに掲載された「世界の難民のための正義は教会の道義的な義務」と題する記事の中で、難民は今や全世界で故郷を逃れる人たちの中で約6500万人にも上っており、その状況が悪化しつつあることで、教会がもっと声を大にすることが必要となりつつあると語った。