人間関係における信頼関係は、築き上げるのに何年もかかりますが、信頼関係を壊すのはたった一つの出来事でも壊れるときがあります。それだけ信頼関係を構築するということは難しいということでしょう。
今、日本と中国は微妙な関係にあります。数年前の尖閣諸島付近での漁船衝突事件によって、中国で反日デモが相次ぎました。日中の国民感情は「最悪」とも指摘されました。相互に不信感が募りました。
しかし、2011年3月11日の東日本大震災当日、宮城県女川町で1人の水産加工会社の専務、佐藤充さん(当時55歳)が中国人研修生20人を避難させ、自らは津波で命を落としたという出来事がありました。中国メディアが佐藤さんの勇気を伝えたところ、中国で瞬く間に広がり、感動を呼んでいるという新聞記事を見ました。
その年の5月に来日した温家宝首相は被災地で佐藤さんに触れ、「国籍にかかわらず救助した。高く評価している。災難の中で得た友情はとても大切で貴重だ」と最大限の賛辞と感謝の意を示されたそうです。中国では、この記事で東北地方への義援金などの支援活動が一気に広がったといわれています。
領土問題などで神経を尖らせる日中関係において、佐藤さんの行動は弱くなっていた関係を大きく前進させたのではないかと思います。私たち日本人も中国残留孤児たちを自分の子どもとして愛し育ててくれた多くの中国人の方々の善意を決して忘れてはいけないと思います。
人間関係は、それが国家間であれ個人間であれ、信頼関係を築くのは多くの努力と犠牲を必要としており、それを壊すのは非常に簡単だということを肝に銘じて行動する必要があるようです。
聖書では、小さな火が大きな森を焼き尽くすとあります。そのために、私たちキリストを仰ぎ信じる者は、個々人の間においても異文化間においても、小さな努力を積み上げていきたいものです。小さな善意の積み重ねがいつしか大きな揺るぎない信頼関係を築き上げ、平和を実現していくのだと信じてまいりましょう。
信頼関係を脅かすような出来事にばかり目がとどまりやすい中にあって、平和の種をまいていくことは容易ではありませんが、そのためにこそ私たちは召されたのだと思います。
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