爽やかな5月の空が広がる子どもの日。新宿で、安保関連法に反対するママの会が、発足以来、2度目となる街宣を行った。新宿西口駅前には、およそ500人が足を止め、ママたちの訴えに耳を傾けた。
「だれの子どももころさせない」を合言葉に集まった全国のママたちは、現在、北海道から沖縄まで47都道府県の各地域に分かれ、地域に即したさまざまな活動を展開している。この日は、北海道、沖縄から駆けつけたママをはじめ、連休最終日、子連れで会場を訪れた首都圏のママが中心となり、「安保関連法の廃止を求める2000万人署名」などの活動を街頭で行った。
夏には、安保関連法成立以来、初の国政選挙を控え、各県のママの会では、選挙参加への呼び掛けなど、しなやかにたくましい母の姿そのままに活動を続けている。ネットなどを中心にさまざまな憶測やうわさを呼んでいるが、「マイクを持つのも、街宣車に登るのも普通のママばかり。みんな緊張しきっているが、それでも声を上げたママの声を聞いてもらいたい」と同会代表の西郷南海子さんは話した。
「ママの会@沖縄」から駆けつけた与那覇沙姫さんは、故郷読谷村の歴史や人々の思いを話した。「沖縄のことで、沖縄の人が決めたことは一つもない。読谷村の米軍の基地問題は、私たちのおじい、おばあが必死に戦ってきて、ようやく返還が決まった。それでも、基地機能の一部が残り、住民は不安に思っている。現在の沖縄は、『嫌なことを嫌だ!』と言えない風潮がある。しかし、過去と現在はつながっている。現在もまた未来へつながっている。皆で一緒に考えていきましょう」と、沖縄の苦しみを訴えた。
北海道から駆けつけた平和子さん(仮名)は、すでに、南スーダンへの派兵メンバーに決まっている自衛官の息子がいる。「ニュース、ネットで南スーダンの事情を知れば知るほど、怒りが込み上げてくる。私の息子に何かあったら、誰が責任をとってくれるのか? 命を返してくれるのか? この活動をするに当たって、息子一家と縁を切った。息子に恨まれるより、死なれる方がつらいからだ。このまま自分が黙っていて、万一のことがあったら、自分は後悔すると思った。絶縁状には、『生き抜け。自分のところに来てくれた宝物、奥さんと子どもを守り抜いて、天寿を全うしてくれ。それが母さんの願いです』と書いた。私たち母親に求められているのは、人間として一番大切なものを伝えることだと感じている。母親は、命を生み、育む。どこの国にも母親がいる。世界の母親が手を取り合えば、子どもたちに住みやすい世界を手渡せるのでは」と必死の訴えをした。
会場にいたママの会メンバーからは、共感する声とすすり泣く声が聞こえた。
ママの会@ちばメンバーで、スピーチをした品玉あき子さんは、「人前で話すことは、最も苦手。震えが止まらないが、自分の思ったことは自分の口で言わなければ伝わらない」と家族にも背中を押され、街宣車の舞台に立った。「昨夏、国会前のデモに1人で参加した。しかし、私1人で参加していても、この大きな力には勝てないのではと感じた。ママの会@ちばがあるのを新聞の記事で見つけ、県内での活動にも参加するようになった。日本の自衛隊が、なぜ他国の起こした戦争に加担しなければならないのか。日本がそのように自衛隊を戦いの場に送ることが、本当に抑止力になるのか。不安でならない。『雨垂れ石をうがつ』ということわざがある。小さな雨垂れでも、根気よく続けていければ、きっと大きな石にも穴を開けられる。自分は、その小さな雨垂れの一粒かもしれない。しかし、一粒がなければ、大きな力で勝手に決めてしまったことも動かすことはできない。これからも仲間と共に声を上げていきたい」と話した。
西郷さんは、本紙のインタビューに対し、「昨夏、同会を立ち上げてからの生活は一変した。とても忙しい毎日。顔と名前を出して活動することで、ネットなどで誹謗中傷する人がいることも耳に入る。生活する上でストレスになることもあるが、今日のように目の前に集まってくれた人々を私は信じたいと思う。これから、地域ごとの選挙戦に入っていくと思う。票読みや党ごとのさまざまな主張がある中で、テクニカルな話に陥りがちだが、ママの会としては、安保関連法、改憲といったことに何度も立ち返っていきたい」と話した。
また、同日朝、京都の自宅を出るときには、長女から「頑張ってね。寂しくなったら、このシールを見てね」と、大切にしていた小さなシールを手渡されたと話した。新幹線の中でシールを見ながら「頑張ろう」と心の中で奮起したのだという。
会場には、上智大学の留学生も姿を見せ、ママたちのスピーチに聞き入った。スペインから来たという女性は、「SEALDsのような学生団体は、スペインにもある。しかし、ママだけのこうした団体は聞いたことがない。非常に興味がある」と驚いた表情を見せた。
さまざまなクリスチャン女性も同会に入り、活動を続けている。教会メンバーの応援も受けて活動ができているという日本基督教団本所緑星教会の信徒、藤野知恵子さんは、「『主があなたを祝福し、あなたを守られるように』(民数記6:24)と聖書にあるように、私たちはいつも主に守られている。祈りとともに行動することも大切だと思い、ママの会での活動をしている。『平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる』(マタイ5:9)は、一番好きな御言葉。これからも平和を実現する一助となるよう活動を続けていきたい」と話した。