知識人7人による平和問題に関する意見表明のための会「世界平和アピール七人委員会」は4月25日、「大規模災害対策に名を借りる緊急事態条項追加の憲法『改正』の危険性」と題するアピール文を公式サイトで発表し、この条項はヒトラー政権が独裁を続けた方式の踏襲を可能にするものだと警告した。
同委員会はそのアピール文で、「安倍晋三首相は、今年7月に行われる参議院選挙を前にして、自民党および改憲に同調する政党に3分の2以上の議席を確保させ、憲法『改正』を実現させる狙いを公言している。その中で、国外からの武力攻撃や国内社会秩序の混乱、大規模自然災害等に対応するための『緊急事態』条項を新設する『改正』からやるべきだという議論が有力だと述べている」と指摘している。
そして、「日本国憲法第99条によって憲法を尊重し擁護する義務を負っている首相は、この義務と国民主権を完全に無視し、三権分立の立法機関である国会を軽視する言動を重ね、戦後70年を超えて積み重ねてきた国の形を強引に変更し続けている」と批判している。
自民党改憲草案第九章「緊急事態」について、実際には緊急事態宣言の範囲を何らの制限なく決めることが可能になっていると指摘。「宣言を発したあとでは、政府は立法機関を無視して『法律と同一の効果を有する政令を制定でき』、自由な財政支出が可能になる。基本的人権は、どこまでも制限でき、緊急事態の期限の延長も意のままになり、国の指示に対する批判や異論は許されなくなる。これでは、日本国憲法が国民に保証している基本的人権と、主権者である国民が政府に負わせている制約のいかなる項目も、例外なく否定できることになる」と述べている。
同委員会は、「これこそナチスのヒトラー政権が、ワイマール憲法のもとで合法的に権力を獲得し、第2次世界大戦の敗戦まで独裁を続けた方式であって、自民党憲法改正草案はその踏襲を可能にするものである」と警告している。
大規模災害については、東日本大震災に言及し、「事態がつかめていない中央からの指示には、不適切・有害なものがあったことが明らかになっている」と述べている。その上で、「必要な権限は現場が分かる現地に任せてそれぞれの状況に合わせた速やかな対応を可能にし、政府は支援に徹する地方自治の強化こそが向かうべき方向である」と主張している。
「世界平和アピール七人委員会は、緊急事態条項の追加は最悪の憲法『改正』であるとみなし、日本国憲法が依拠する平和主義・国民主権・基本的人権の尊重のために全力を尽くすことを改めて誓う」とこのアピールを結んでいる。
なお、同委員会のメンバーの1人でカトリック信徒でもある国際政治学者の武者小路公秀氏は、2014年12月、本紙とのインタビューで、「平和に生存する権利、メタノイアの表れ方として」というテーマについて語っている。(関連記事はこちら)
その中で武者小路氏は、植民地主義について心を入れ替えるメタノイア(日本語訳聖書で「悔い改め」などと訳されるギリシャ語)の必要性を強調するとともに、宗教・アイデンティティーと人間の安全保障に関するジョージアンドレア・シャーニー氏(国際基督教大学上級准教授)の著書や、田辺元著『懺悔道としての哲学』について論じた。
さらに同氏は、アベノミクスのような「貪欲」な新自由主義の経済に対して仏教とキリスト教が共に闘う考え方についても言及し、最後に世直しをするキリスト者の役割と日本国憲法の意味を指摘した。
また、世界平和アピール七人委員会のこれまでの委員の中には、植村環(たまき)、関谷綾子(いずれも元日本YWCA会長)、隅谷三喜男(東京大学名誉教授、元東京女子大学長)、平山郁夫(画家、元東京藝術大学学長)などのクリスチャンが含まれている。