キリスト者や仏教者などがつくる平和運動団体「宗教者九条の和」は17日、参議院議員会館で「武力で平和はつくれない 戦争法制反対 いのちと憲法9条を守ろう! 宗教者祈念集会」を開き、40人の参加者が「『いのち』と人権を守るため『緊急事態条項』の新設に反対しよう!」と題する緊急アピールを採択した。また、この集会で、「戦争をさせない!1000人委員会」事務局長の内田雅敏弁護士が「安全保障をめぐる環境の変化を作り出したのは誰か」とのテーマで講演した。
「今度の参議院選挙の前に当たり、私たちは、3年前の96条改定を阻止した運動と世論を思い起こし、人権蹂躙(じゅうりん)の『緊急事態条項』の新設を阻止し、安倍政権から『いのち』と人権を守り抜くことを全ての人々に祈り訴えます」と、このアピールは結んでいる。
「私たち宗教者は、安倍政権による『緊急事態条項』の新設は、独裁政治に向かう国家権力による著しい憲法違反、立憲主義破壊であることは明らかであり、絶対に反対します」と、同アピールは主張している。
「人間は過ちに陥りやすいものです。権力の暴走が大きな過ちを生むのは、戦前の軍国日本とヒトラーのドイツ帝国を思い起こせば明らかです」と同声明は述べ、「私たち宗教者は、『いのち』と人権を守る立場から、戦前の歴史が繰り返されることを黙って見過ごすことはできません」としている。
一方、講演を行った内田氏は、「この安全保障をめぐる環境の変化が本当にあったのかどうか、あったとしたら誰がそれを作り出したのか、それに対して集団的自衛権行使容認・安保法制・自衛隊の装備拡大・米軍と一体化という方法で対処し得るのかどうか、こういうことをきちんと私たちが理解し、そしてみんなに語っていかなくちゃいけないと思う」と述べた。
内田氏は、中国との関係について、習近平国家主席が、日本と中国の関係は1972年の「日中共同声明」、78年の「日中平和友好条約」、98年の「日中共同宣言」、2008年の「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」という四つの基本文書によるべきだと述べたことに言及。08年のこの声明で、「中国側は、日本が、戦後60年余り、平和国家としての歩みを堅持し、平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきていることを積極的に評価した」と述べられていたことを指摘し、「今の日中の関係を言えば、驚きでしょう」と付け加えた。
しかしその後、12年3月に名古屋の河村たかし市長が「南京大虐殺はなかった」と発言し、その夏に石原慎太郎都知事(当時)が尖閣諸島を東京都が購入すると述べ、そして13年12月、安倍首相が靖国神社を参拝したことについて、「これ(ら)は中国に対する挑発以外の何物でもない」と内田氏は述べた。「中国の軍拡派は、待ってましたとばかりにこれに乗ったわけです」
その上で内田氏は、「日中の軍拡派が共同で作り出した、そういう安全保障をめぐる環境の変化ではないでしょうか」と問い掛けた。
「(安倍首相の)靖国参拝について、ウォールストリート・ジャーナルが、これは中国の軍拡派に対する格好のプレゼントだと言った。お互いにプレゼント交換をしながら、国内の治安体制を強めようとしている」と内田氏は述べ、次のように続けた。
「こういう時に集団的自衛権の行使を容認して、安保法制=戦争法制を定めて、自衛隊の装備を拡大し、武器輸出を国家戦略とするような国にして、自衛隊が米軍と一体となって海外へ出て行く。これで日中間の関係が改善されるでしょうか? 逆ですよね。中国の軍拡派はますますこれを利用する。そして中国における人権弾圧が進むということになる」
内田氏はまた、日中共同声明に「両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させる」と記されていることを述べた上で、同声明の第5項(中国の日本に対する戦争賠償請求の放棄)、第6項(紛争の平和的解決)、第7項(反覇権条項)の全文を理解してほしいと紹介した。
そして、「日中共同声明の第7項、そして日中平和友好条約の中に入っている反覇権条項を活用すべきだ。これが外交だ。集団的自衛権の行使を容認して、アメリカの言いなりになって米軍基地を造り、海外に自衛隊を派遣して、いざとなったらアメリカさん頼みますよなんていうのは、外交でも何でもない。そういうことを私たちは訴えていかなくちゃいけない」と内田氏は述べた。
さらに内田氏は、1998年の日中共同宣言も「日本側は、1972年の日中共同声明及び1995年8月15日の内閣総理大臣談話を遵守し」と言っていると指摘した。
『和解は可能か―日本政府の歴史認識を問う』(岩波書店、2015年8月)などの著書がある内田氏は、「私たちが今までの日本政府の歩み、国際的な中での発言、それから憲法以降の流れは一貫している。この流れを持っていることが、外国が日本に対して安心を与える、日本の平和資源だ。この安心を一挙に破壊するのが安倍だ。絶対に許さない、そういう決意を強く持ちましょう」と講演を結んだ。
内田氏は、元裁判官や元検事などを含めた法律家たちが総がかりで立憲主義の破壊や安保法制に対する違憲訴訟を全国各地で起こそうとしていることを紹介。「皆さんが、その原告となってくれるよう、あるいはこの違憲訴訟を支える会に入って、裁判を傍聴し、学習会や報告集会に参加し、決してこの問題を忘れないように」と呼び掛けた。
内田氏も共同代表を務めている「安保法制違憲訴訟の会」は、4月20日(水)午後6時から8時まで、参議院議員会館1階講堂で提訴に向けた「4・20安保法制違憲訴訟決起集会」を開く予定で、同会からのあいさつや、“今違憲訴訟を起こす”意義について、そして原告からの決意表明などがその内容だという。
講演の中で、内田氏は清沢洌(きよし)著『暗黒日記』(ちくま学芸文庫、2002年)をあらためて読み直してみたと語り、それが戦争当時の言論状況を丹念に拾っていると紹介。これを読むことを参加者に勧めた。
内田氏はさらに、日本国憲法の前文に「平和を愛する諸国『民』」と書かれていることを強調するとともに、憲法学者の樋口陽一氏が、「占領軍は日本の民主主義的伝統に基づいてこの憲法草案を作った。なぜならポツダム宣言第10項後段に「日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スベシ」とあり、ポツダム宣言の起草者は日本に民主主義的傾向があったことを知っている人が書いた。それは明治の自由民権運動であり、大正デモクラシーだ」と述べたことに言及した。
その上で、「対外的には残念ながら帝国主義であったという問題点はあるものの、ポツダム宣言の起草者が『復活』という言葉を入れたことはすごいことだ」と述べ、「これを私たちは考える必要がある。ポツダム宣言をよく読んでほしい」と付け加えた。
日本カトリック正義と平和協議会事務局長の大倉正美神父は、閉会のあいさつで、「私たち宗教の信念はそれぞれ違うと思いますが、命と人権を本当に大切にして、平和を愛する宗教者の私たちは、政府のやり方にめげず、間違っている憲法違反の法律を阻止し、平和憲法を輝かせるような行いを続けることによって、間違った政府を変えていかなければならないし、民主的な政府を樹立させなければならないと思います。共に頑張っていきましょう」と訴えた。
なお、宗教者九条の和や日本のカトリック司教協議会社会司教委員会、日本聖公会管区事務所、日本バプテスト連盟「憲法改悪を許さない共同アクション」などは、「戦争法の廃止を求める統一署名」を5月3日の憲法記念日までに集める運動への参加と協力を呼び掛けている。詳しくはこちら。
また、安保法制案可決から6カ月後の19日(土)午後1時半からは、東京の日比谷野外音楽堂で総がかり行動実行委員会が「戦争法を廃止・安倍政権の暴走を許さない3・19総がかり日比谷大集会」を行う。また26日(土)午前11時からは東京の代々木公園で「NO NUKESE DAY 原発のない未来へ!3・26全国大集会」が予定されている。そして、総がかり行動実行委員会の呼び掛けにより、28日(月)正午から午後5時までは、衆議院第2議員会館前歩道で「戦争法施行に抗議する国会前座り込み行動」が、安全保障関連法が施行される29日(火)午後6時半から7時半には、国会正門前で「国会正門前大集会」が予定されている。詳しくは同委員会の公式サイトを参照のこと。
さらに、宗教者九条の和によると、次回の宗教者祈念集会は、4月12日(火)午後2時から参議院議員会館で行われる予定。