ある宣教師が長い間伝道しつづけた日本を去るにあたって、感謝送別会の席上こう言いました。「主イエスが天に召して下さる人数よりも、この地上で教会に召して下さる人の方が多くなるように祈り願っています」。
この葬式よりも洗礼式を!という挨拶は、独特のユーモアまじりに言ったことでしょうが胸にこたえるものがあります。現に和やかだった会場はその時、シーンと静まり返ってしまいました。また、こんな話も同じ地で耳にしました。「牧師が月曜日ゴミを出したが、すぐカラスが沢山飛んできて突っつき始めた。その光景を見ていた牧師がつぶやいたというのです。『ああ、せめてこのカラスの数くらい礼拝に昨日、集まってくれればよかったのに』」。
これも笑えない、シーンとしてしまう話です。
こんな厳しい伝道戦線で一人の魂の救いを追い求めて日夜苦労している教会があるのだと思うと胸が熱くなります。
現に不毛と思える地で営々と忍耐しつつ伝道してきた人々によって日本の教会は支えられ今日に至っているのです。
そして、ようやくとらえた一人を都会へと送る苗床教会として黙々と日本伝道を担ってきている人々、教会が多いのです。
そんな方から「都会の教会の元気のなさが気になる」と言われました。依然として人口流入の続く東京の教会も、しっかりしなければなりません。都会と地方の教会の伝道協力はとても大切です。相互に支え合い、学び合って成長することになるでしょうから。
都会も農村もそれぞれ固有の伝道上の困難があります。あの使徒言行録の言葉が思い浮かびます。「ガザへ下る道へ出なさい」(このガザは、今は荒れはてている)(八章26、口語訳)。
伝道はいつも荒野をめざすのです。しかし、そこで主に再会するのでしょう。
(C)教文館
山北宣久(やまきた・のぶひさ)
1941年4月1日東京生まれ。立教大学、東京神学大学大学院を卒業。1975年以降聖ヶ丘教会牧師をつとめる。現在日本基督教団総会議長。著書に『福音のタネ 笑いのネタ』、『おもしろキリスト教Q&A 77』、『愛の祭典』、『きょうは何の日?』、『福音と笑い これぞ福笑い』など。
このコラムで紹介する『それゆけ伝道』(教文館、02年)は、同氏が宣教論と伝道実践の間にある溝を埋めたいとの思いで発表した著書。「元気がない」と言われているキリスト教会の活性化を期して、「元気の出る」100のエッセイを書き上げた。