特定非営利法人イラク日本医療支援ネットワーク(JIM−NET)は、今年も日比谷ギャラリー(千代田区)で「いのちの花展」を開催している。今年は、イラク国内の白血病に苦しむ子どもたちの絵や、シリア、イラク国内で撮影された写真に加え、過激派組織「イスラム国(IS)」から逃れてきたヤジディ教徒の子どもたちが描いた絵が展示されている。イラク北部のアルビルに拠点を置き、活動を続けるJIM−NETの海外事業担当、榎本彰子さんに話を聞いた。
榎本さんのいるアルビルは、クルド人自治区の中心都市。治安は、イラクの他の地域に比べると、比較的安定している方だという。しかし、ISによる自爆テロの可能性が全くないわけではなく、時折テロは起きているようだと話す。榎本さんらは、主にイラクの小児がん支援・シリア難民支援・国内避難民の支援を行っている。
「一昨年の6月以降、イラク中央政府側にいた人々がクルド自治区の方にたくさん逃げてきている。難民キャンプはできているが、それだけでは到底収容しきれない数の人々が押し寄せてきている」と話す。その中には、キリスト教徒の姿も多くあるという。
一昨年、イラク国内のキリスト教徒が多く住むカルクーシュがISに襲撃された。「それを機に、その地域のキリスト教徒が一気に逃げ込んできたようだ」と話す。2014年8月には、ISによるヤジディ教徒の大規模な迫害が起こった。イラク国内に50万人いたヤジディ教徒のうち、10万人が現在もなおIS支配地域にいるとされているが、その安否は分かっていない。
ISの兵士に拘束されると、家族はバラバラにされる。男性、女性はもちろんのこと、男の子は少年兵候補に、女の子は性奴隷の対象として、それぞれ区別されるのだ。性奴隷となった女子は「品定め」をされた後、改宗させられ、イスラム教徒とされるIS兵士と結婚させられるのだという。
イラク国内では、虐殺の様子やテロの様子も、テレビのニュースで隠すことなく放映されている。ISのプロパガンダなどの映像も放映されるため、それらを子どもたちが目にすることも多い。今回展示されている絵にもISの兵士が描かれており、中には、虐殺の模様がありありと描かれているものがあった。これらは、彼らが実際目にしたものか、人から聞いたものか、あるいはテレビの映像で目にしたものだという。
兵士に銃を突き付けられ、必死で子どもたちを抱きかかえる母親の絵、ヤジディ教徒たちが改宗させられ、イスラム教徒の女性がつけるブルカをまとい、兵士に連行される様子、山の中に逃げ込んだが、水を確保することができず、衰弱している老婆の絵など、写真で見るそれとは、まったく違う感情が沸き上がる。
彼女たちが、この1枚の小さな絵に、何を託し、何を訴えようとしているのか・・・。戦争を「日常」としている子どもたちは、何に希望を見いだし、何を祈っているのか。
榎本さんに「私たちにできることは何か?」と問うと、「この現状を、とにかく多くの人に知ってほしい。日本にいる方々に、彼らの絵を見てもらうだけでもいいと思う。戦争が『すぐそこ』にある子どもたちのことを覚えていてほしい。戦争をしない世界、させない世界を考えてほしい。時間はかかるかもしれないが、それを考えることが国際社会の使命なのでは」と答えた。
JIM‐NETが主催する大規模な絵画展は、年に一度の「いのちの花展」だけだが、講演会や勉強会は不定期に行っている。絵画の貸し出しも行っているので、主催者がいれば全国どこでも絵画展を行うことができる。詳しくはホームページ。
「いのちの花展」~I am not ephemeral~
日時:2016年2月12日(金)~17日(水)
会場:ギャラリー日比谷
〒100‐0006 東京都千代田区有楽町1‐6‐5 電話:03・3591・8945【期間中イベント】
※トークとアラブ・カフェはカンパ制で行います。◆2月13日(土)、14日(日)
アラブ・カフェ(終日)予約不要◆2月14日(日)14:30~16:00
タリィトーク「バレンタインにアラブ愛を語る女たち」
中東地域に関わってきた吉竹めぐみさん(写真家)、国井真波さん(看護師)、榎本彰子(JIM‐NET海外事業部)によるトーク
参加費:無料・カンパ歓迎
定員:30名(要予約)◆2月15日(月)14:00~15:30
鎌田實の「がんばらない」トーク
JIM‐NETの鎌田實代表と佐藤真紀事務局長のトーク
参加費:無料・カンパ歓迎
定員:50名(要予約)◆2月15日(月)16:00~17:00
羊ぐるぐるワークショップ
講師:佐藤百子先生(日本羊毛フェルトクラフト協会)
材料費:1000円
定員:15名(要予約)