「あなたは知らないのか。聞いていないのか。主は永遠の神、地の果てまで創造された方。疲れることなく、たゆむことなく、その英知は測り知れない。疲れた者には力を与え、精力のない者には活気をつける」(イザヤ40:28、29)
日本では年間の自殺者が、3万人を超えたのは1998年のことでした。失業、経営の失敗、借金など、主に中高年の男性が経済的問題を苦にして自ら世を去るケースが急増しました。自殺者の多くは「社会の生き難さ」を示す一つの指標だといってもよいでしょう。人口10万人当たりの自殺者は、ここ数年18~25人という、先進国の中でも際立って高い値で推移しています。
「人生には三つの坂がある」と言われます。「上り坂」と「下り坂」と「まさか」という坂です。「まさか、こんなことが私の人生に起こるなんて」ということが誰の人生にもあります。私たちは人生で何が起こるのかは選ぶことはできませんが、その起こったことに、どう反応するかは選ぶことができます。
例えば、会社をリストラされたとしましょう。ある人は自殺を選びます。ある人は家族に黙って偽りの出社をしてパチンコなどで時間を過ごし、現実から逃避することを選びます。そしてある人は、それを機会に新しい可能性にチャレンジします。
そして人が困難に出会ったとき、どういう選択をするのかは、その人の持つ価値観に大きく影響されます。ユダヤ人の精神科医ヴィクトール・フランクル博士は「人間には三つの価値観がある」と言います。
一つ目は「創造的価値観」です。これは、どれだけ多くのものを創り出せるのか、ということに価値を見いだします。多くの富を集めること、高い社会的地位につくこと、広く名声を集めることを追求します。しかし、この価値観をしっかり握りしめている人は、それを手に入れることができなかったとき、大きな挫折感を覚えますし、たとえ手に入れたとしても、今度はそれを失うことに恐れを抱くようになるのです。従って、不安定な人生を歩むことになります。
二つ目は「体験的価値観」です。これはどれだけ多くのことを体験できるか、どれだけ多くの人々と知り合いになれるか、ということに価値を見いだします。
この価値観を持つ人は活動的でエネルギッシュです。世界中に旅行に出かけ、可能な限り人の集まりに参加し、多くのことに興味や関心を持ちます。多くの知恵や情報がその人のものとなるでしょう。しかし、この価値観に支えられている人は、やがて失望感に襲われ、焦燥感に駆られることとなります。なぜなら人は皆老いていくからです。気持ちとは裏腹に体がだんだんと言うことを聞いてくれなくなります。自分の世界がどんどん狭まって行くのです。
三つ目は「態度的価値観」です。これはどんな態度で人生を送るかということに重点を置いて生きる生き方です。何が起こっても、どんな状況や環境に置かれても、また、何歳になろうと、その中でいつも積極的、肯定的、独創的な態度を選択することを決めている人は、周囲の状況によって決して左右されない生き方ができるのです。
かつてデンマークに一人の男の子が生まれました。彼が生まれたのは棺桶の中でした。お母さんは他人の汚れ物を洗って生計を立てていました。おばあさんは庭掃除をしてお金をもらい、おじいさんは精神病院に入っていました。本当に貧しい家に生まれ、貧しい貧しい生活の中で彼は育ちました。彼は大人になって恋をしましたが、恋をした相手にことごとくふられ、失恋ばかりでした。ついに彼は生涯独身で過ごしました。
彼は70歳まで生きて、彼が最後に言った言葉はこうでした。
「私の人生は童話のように幸せでした」
この彼とはアンデルセンのことです。アンデルセンはなぜこのような環境や状況の中にあっても「幸せでした」と言えたのでしょうか。その秘訣を彼はこう言っています。
「私を愛し、私を助けてくださるイエス・キリストが、いつも共にいてくださったからです」
正しい価値観は、状況や環境が変わっても、それでもなお、私たちに喜びや平安や希望を与えてくれるものです。
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