事業用自動車事故調査委員会(酒井一博委員長)は11日、昨年9月に神奈川県平塚市で発生した、観光バスが停車中の作業車に衝突し、16人が重軽傷を負った事故に関する報告書(10月30日付)を発表した。同委は報告書で、男性運転手(57)が運転中に冠攣縮(れんしゅく)性狭心症を発症し、前方を注視することができなくなった可能性があったと報告した。
事故は昨年9月26日午後4時5分ごろ、片側2車線の国道271号線(小田原厚木道路)で発生。乗客13人、添乗員1人を乗せた中型の観光貸切バスが、故障で停車していた高所作業車に衝突した。この事故により運転手と添乗員の2人が重傷、乗客13人全員と作業車の運転手1人が軽傷を負った。
報告書は事故の原因について、「当該運転者が運転中に冠攣縮性狭心症の症状を発症した可能性が考えられ、当該運転者は体調異変の兆候を感じていたにもかかわらず運転を続けており、左胸の苦しさから前屈(かが)みとなり、前方を注視することができなくなった。その後回復し、視線を上げたところ、車両故障により前方に停止中の相手車両(作業車)が目前に迫っていて、ブレーキを踏んだものの間に合わず追突したものと考えられる」としている。
報告書によると、運転手は入社直前の事故前2カ月以内に2回胸部痛があったが、自然に回復したため病院で検査を受けていなかった。さらに、雇い入れ時の健康診断では、医師から心電図異常の診断があり要精査の意見があったが、精査を受けていなかったという。また、バスの事業者も運転手に乗務を続けさせ、精査と運転乗務の可否に関する医師からの意見聴取を先延ばしにしていた。運転者への点呼も実施しておらず、運転手の体調把握ができていなかったと指摘した。
同委は再発防止策として、▼事業者は、運転者の病歴を的確に把握し、医師の判断に基づき治療を受けさせるなど、運転者の健康管理を徹底する、▼事業者は、運転者に対し、走行中に体調異常を生じた場合、非常点滅表示灯を点灯させ、直ちに車両を安全な場所に停止するよう指導する、▼事業者は、遠隔地であっても電話などにより点呼を確実に実施し、運転者の健康状態を把握する、などを挙げた。