「この希望は失望に終わることがありません」(ローマ5:5)
これはアメリカの友人に聞いた話です。「アメリカでは97パーセントの牧師が信頼している友人たちから裏切られ、間違った告発を受け、傷つけられています。また、70パーセントの牧師が鬱(うつ)状態と闘っています。全米で、7000カ所の教会が毎年閉鎖され、毎月1500人の牧師が辞任し、全体の10パーセントの牧師が引退しています」
キリスト教国と思われていたアメリカがとても悲惨な状況になっています。80パーセントの牧師が失望し、78パーセントの牧師が親しい友人がいなくて孤独に苦しんでいるといわれます。「リーダーであるということは孤独との闘いです」という言葉を聞いたことがありますが、気分転換を図り、超教派での牧師の交流、語り合いを持つことはとても価値あることです。私が弟子訓練プログラムを学んでいたとき、カリフォルニア南地区牧師ゴルフ懇親会が開催されていました。聖書の学びは一切なく、ゴルフをプレーし、ランチを共に食べ、伝道とは関係のないことをおしゃべりするという内容でしたが、実は大切な機会だと思います。
預言者エリヤもバーンアウト(燃え尽き症候群)になったことがあります。彼は荒野をさまよいますが、神様の特別のケアを受けます。「彼は見た。すると、彼の頭のところに、焼け石で焼いたパン菓子一つと、水の入ったつぼがあった。彼はそれを食べ、そして飲んで、また横になった」(Ⅰ列王記19:6)。エリヤはひたすら食べて寝るを繰り返しますが、やがて元気を取り戻します。
ある会社の社長が病死された時、その奥さんは力を落とされ、悲嘆にくれておられました。何とか夫の事業を受け継ごうとされましたが、うまくいかず、引退されました。その後どうなられたのか消息は分からなかったのですが、久しぶりにお目にかかったとき、見違えるように元気になっていらっしゃいました。そして「四国のお遍路さんに何度も行っています」と言われました。お遍路に加わるために全国各地からいらっしゃるのですが、そのほとんどが心に痛みを持っていたり、悲しみを抱えていたりするそうです。遍路の道すがら、仲良くなった人と語り合うのだそうです。その社長夫人は、東日本大震災で息子を失い、悲嘆にくれる母親と知り合い、話を聞き、励まし続けたそうです。最後は自分自身が勇気を与えられ、元気が出てきたそうです。そして、遍路カウンセラーになって励ましを与えることに生きがいを見いだしたというのです。
ある精神科医が「信仰者が鬱(うつ)病になると治療が難しい」と話していました。信仰があるのに病気になってしまったとか、信仰が足りないからなかなか治らないと自分を責めるケースが多いそうです。生身の体を持つ人間であるから、風邪をひくこともあるし、精神的な病になることもあると楽観的に捉えなければいけないのです。ましてや天変地異による災害は自分の精神状態とは関係のないところで起こっています。これは地球の事情ですから、個人的な判断の範疇(はんちゅう)を超えていますから、神に委ねることを学ぶことが大切です。聖書に示されている神様は、愛と赦(ゆる)しの神であり、決して責める神ではないのです。
眠れないとか精神的に不安定というときに、医者に処方された薬を飲み続けることをためらう方がいらっしゃいます。確かに錠剤のほとんどは化学物質からできていますが、信頼できる主治医の指示により適切に服用すれば、心配はいらないと思います。ある精神科医は、精神安定剤による副作用について50年間追跡調査していますが、「ほとんど影響はない」と断言しています。
心を開いて語り合うということは、何よりも大切な薬になります。どんな信仰者でも祈れない苦境に陥ることがあります。その時は「祈ってもらう」ことで癒やされます。「私のために祈ってください。私の話を聞いてください」と気軽に話せる仲間が必要です。
「神は、どのような苦しみのときにも、私たちを慰めてくださいます。こうして、私たちも、自分自身が神から受ける慰めによって、どのような苦しみの中にいる人をも慰めることができるのです」(Ⅱコリント1:4)
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穂森幸一(ほもり・こういち)
1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。