ここ数年、キリスト教に改宗した中東の元イスラム教徒が、ある人の夢を見てそうせざるを得なかったと話すことがよく聞かれる。彼らは、その人がイエス・キリストだと信じている。そして最近、ある宣教師の話によると、キリスト教徒を虐殺している過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員の一人が、驚くべきメッセージを伝えに来た「白い服の男」の夢を見て、ISの犠牲者たちが信じていた宗教、すなわちキリスト教に改宗したという。
キリスト教迫害監視団体「殉教者の声」(VOM)のラジオ番組の中で、宣教団体「ユース・ウィズ・ア・ミッション」(YWAM)のディレクターであるジーナ・フェイドリー氏が、「今年初め、中東地域にいるYWAMのスタッフの一人に、友人から連絡が入りました。スタッフは友人と会い、その時、既に多くのキリスト教徒を殺害してきたISの戦闘員を紹介されました。これは本当に恐ろしい状況でしたし、明らかにこのスタッフは警戒していたでしょう」と語った。
1960年に設立されたYWAMは、現在世界150カ国以上で活動する国際的な宣教団体。「全世界でイエスに仕えるために献身する、多様な文化、年齢層、伝統を持ったキリスト教徒によるグローバルなムーブメント」だと説明している。一方、VOMは、世界中で迫害に面しているキリスト教徒への関心を集めるために働いている団体だ。
YWAMのもう一人のディレクター、ケビン・サッター氏と共にVOMのラジオ番組に出演したフェイドリー氏は、この時に会ったISの戦闘員はキリスト教徒を殺しただけではなく、「それを実際に楽しんでいた」ことも告白したと語った。
「彼はこのYWAMのスタッフに、白い服を着た男が来て『あなたは私の民を殺している』と言う夢を見始めたと話しました。そして、彼自身がしていることに対して、本当に気分が悪く、不安になるようになったのです」とフェイドリー氏。「彼があるキリスト教徒を殺す直前、そのキリスト教徒が彼に、『あなたが私を殺すのは分かっています。しかし、私の聖書をあなたに差し上げます』と言いました。そのキリスト教徒は殺されました。そして彼はその人の聖書を取り、読み始めたのです。他の夢では、イエスが彼にご自分に従うよう勧め、キリストに従う者として訓練を受けないかと尋ねたというのです」と語った。
そして、「神のみぞ知ることです。ひょっとしたら彼は、聖書の中でキリスト教徒を迫害していたサウロが迫害をやめ、初代教会の指導者、使徒パウロとなったようになるかもしれません」と、フェイドリー氏は言い、「神は(人の)向きを変えることができるのです」と語った。
ISは、「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)や「イラクとレバントのイスラム国」(ISIL)としても知られ、ダーイシュとも呼ばれている。イスラム首長制ないしイスラム教スンニ派の政権を打ち立てるために、2013年から北アフリカ地域から中東全域で血塗られた戦闘を行っている。ISの指導者たちは、ローマのバチカンにまで統治権があると主張している。
聖戦主義者の取る方法は残酷で、少数派のヤジディ教徒やキリスト教徒だけでなく、その厳格な規則に反対する他のイスラム教徒に対してすら、野蛮な銃殺刑、絞首刑、石打ち刑、斬首刑を行っている。2月には、リビアで拘束されたコプト正教会のエジプト人キリスト教徒21人が殺害され、4月には、同じくリビアでエチオピア人キリスト教徒約30人を斬首する動画を公開し、全世界を揺るがせた。
VOMのラジオ番組司会者、トッド・ネトルトン氏は番組中に、ISの戦闘員たちがさらなる残虐な行為を行ったとしても、キリスト教徒は「ISのことを、神の恵みや神の霊が届く範囲外にあるかのように書くべきではない」と語った。
サッター氏は、あるアラブ人の指導者から、イスラム教徒の間に「前代未聞の霊的な飢えがある」と話されたことを明かした。
「今や多くの人々がイエスに従っていますが、そのことを黙っています。そのことを公にしていないのです。礼拝ですら各々の家で持ち、(説教を)テレビ放送を通して聞き、聖餐も行っています」とサッター氏は言う。
フェイドリー氏は、中東地域の非常に宣教が困難な人々を宣教する上で、YWAMの宣教師に助けの手を伸べるために、神が夢を用いているのではないかと言う。そして、夢は、イスラム教徒をはじめとするキリスト教徒ではない人たちに、イエスが救い主だと信じさせるために神が用いている方法の一つだと考えていると話した。
キリスト教弁証者で、『Seeking Allah, Finding Jesus: A Devout Muslim Encounters Christianity(アラーを求め、イエスを見つける―熱心なイスラム教徒、キリスト教に出会う)』の著者であるナビール・クレシ氏は、3月のインタビューで、イスラム教徒にとっての夢の有効性について説明している。
「イスラム教徒の文化では、一般的に人々は自分が神と親しく交わりができるとは思っていません。神との親しい交わりという概念は、非常にキリスト教的なものです。この概念にかかる覆いをキリストは破り捨てたのですが、他の多くの文化において、このベールはまだ存在しています。例えばイスラム教では、人々は神が個人的に語り掛けてくれることは期待していません。聖霊がその中にいないからです。人々は夢を通して神に導きを求めます。夢は、イスラム教徒が神の語り掛けを聴く一つの方法なのです」とクレシ氏は言う。
「『神様、あなたのことについて教えていただけますか?』とか、『もしあなたがイエスならば、私に夢を見せてくださいませんか?』と言うのは、全く不思議なことではありません。これはイスラム教徒には普通のことです」
一方、キリスト教徒は、イスラム教徒が「イエスの夢」によってキリスト教に出会ったと主張するのに懐疑的だ。しかし、米南部バプテスト派の長期宣教師デイビッド・ガリソン氏も、こうした夢によって多くのイスラム教徒が、イエスをイスラム教における預言者以上の存在として信じるようになっていると断言している。