マレーシアの首都クアラルンプール南西に隣接するタマンメダンで19日、新築された教会の外側に取り付けられた赤い十字架に約50人の住民が抗議したため、教会が十字架を取り外した。これを受け、マレーシア教会協議会(CCM)は20日付の声明で、この住民のやり方に「不満と不快」を表明した。
牧師であるCCM総幹事のハーマン・シャストリ博士の署名で出されたこの声明は、「タマンメダンの小さな示威集団が教会の礼拝を混乱させ、キリスト教徒の聖なる象徴に関して宗教的に無神経な要求をすることで、勝手な制裁を加えたやり方に、不満と不快を表明する」とし、今回の出来事に対し抗議の意を示した。
同国の英字紙「ザ・スター」(電子版)などが19日に報じたところによると、セランゴール州プタリンジャヤ市のタマンメダンにあるこの教会で、礼拝が行われていた日曜日午前、この示威集団は、イスラム教徒が多数を占める地域で十字架が目につくのはイスラム教に対する挑戦であり、若者の心に影響を及ぼすと主張したという。
同国メディアの報道によると、この集団を率いたのは、地元住民の男性であるダトゥク・アブドゥラ・アブ・バカル氏で、警視総監の兄だという。
住民による抗議の後、十字架は教会の指導者たちによって取り外された。同教会の信徒は15人程度で、プライバシーの権利を求め、同紙に対して身元を明らかにしていない。
CCMは声明で、「またしてもこのような事件がセランゴール州で起きたことに驚いてはいない」と述べつつも、「この州における宗教間の緊張をあおり、増大させようと出てきた人々による政治的な計画が、このような行為の背景にあることは明らかだ」と主張した。
また、「(CCMの加盟)教会は、この国の宗教間の調和を乱すいかなる行為にも無条件に反対する。実のところ、マレーシア人の大多数は、宗教的な象徴を表示する権利を乱して、礼拝する人々の権利や礼拝の場所を否定しようとする行為に対して、反対する声に加わってくれるだろうと信じている」と述べた。
CCMは、仏教・キリスト教・ヒンズー教・シーク教・道教マレーシア協議会(MCCBCHST)に加盟すると共に、これまでも同国のイスラム教徒との緊張を何度も経験し、そのたびに調和を求めてきた。
声明は州当局に対し、「示威集団によって精神的に傷つけられたこの小さくてか弱い教会を助けにきてくれるよう求める」と呼び掛け、「他者の礼拝を乱そうとし、暴徒の力を示すことで、自らの宗教観を他の宗教者たちに押し付けることによって超法規的な行動を取ろうとするいかなる者に対しても、断固たる措置をとるよう求める」と要求した。
一方、ザ・スター紙が21日に報じたところによると、プタリンジャヤ市協議会は、この教会が法律に従って商店街の建物を礼拝場所として活動するための申込書を提出しておらず、教会堂に十字架を取り付ける許可を得ていなかったため、無許可であると分類した。この許可はどの宗教の象徴にも必要とされるという。
マレーシア政府が2010年に行った調査に基づく統計によると、同国の人口の61・3%がイスラム教徒で、19・8%が仏教徒、キリスト教徒は9・2%で3番目に多く、次にヒンズー教徒が6・2%で続く。儒教や道教などの伝統的な中国の宗教は1・3%、無宗教は0・7%、その他の宗教あるいは無回答は1・4%となっている。