マレーシア政府により海外から輸入した聖書3万5000冊が押収された問題について、ダトゥ・セリ・ヒシャムディン・フセイン内務相は12日、問題が「友好的」に解決されつつあるとする声明を発表。同国内のキリスト教会から強まる批判に対して釈明を行った。
同国では10日、同国内最大のキリスト教組織であるマレーシア・クリスチャン同盟(CFM)が、新約聖書と旧約聖書の詩篇、箴言の各書合わせて3万冊を政府によって押収されたと発表。マレーシアでは2009年3月にもマレー語聖書5000冊が押収されており、CFMは「マレーシア国内のクリスチャンが聖書を読めないように、政府が密かに継続的かつ組織的な措置を行おうとしているように思えてならない」と批判していた。
CFMによると、3万冊は同国ボルネオ島西部サラワク州のクチン港で押収された。09年の5000冊は、首都クアラルンプールのあるスランゴール州のクラン港で押収されている。
フセイン内務相は声明で、「クラン港とクチン港で輸入された聖書については、内務省ではこれまで法務長官に助言を求め、助言を受けてきた。この助言に基づいて、この二件の問題については関係者の間で近日中に友好的に解決されるであろう」と語った。
しかし、CFMは政府の対応について懐疑的だ。09年の押収以来、返還のために取られてきた対応は「飽き飽きするような手続き」だったと批判。「政府は押収された聖書の返還のためにこれまで何も行っていない」としている。
一方、同問題を管轄する同国内務省は、聖書の押収は正当なものだとし、押収は「感情的で論争を引き起こしかねない」問題が深刻化するのを防ぐために合理的な理由で決められたものだと主張。13日の声明では、「強引な主張や憶測に耳を貸さないよう求める。内務省はこれまでと同様、法に基づいて行動する」としている。
マレーシアでは、カトリック系の新聞『ヘラルド』がマレーシア語版の紙面で「神」を示す言葉として「アラー」を使用していたが、これに対して政府は07年、使用を中止しなければ新聞の発行許可を取り消すと要求。カトリック教会側がこれに反発し、政府を相手取って訴訟を起こした。
政府は、アラーを使用できるのはイスラム教徒に限られると主張。キリスト教の出版社がアラーを使えば、イスラム教徒に混乱をもたらすなどとしていた。
一方、カトリック教会側は、アラブ語のアラーはイスラム教の誕生前から使われていた言葉であり、イスラム教徒に使用が限定されないと反論。マレー語においても何世紀にもわたってアラーは神を意味する言葉として使われてきたとしている。
09年12月には最高裁が、アラーの使用はイスラム教徒に限定されず、内務省が非イスラム教徒に対してアラーの使用を禁止する権限はないとする判決を下した。しかし、同省は昨年2月、最高裁の判決を不服として再度訴えを起こし、最高裁の判決を保留とする判決を得ている。
フセイン内務相は声明で、依然裁判が継続中であることについて触れ、裁判の結果が「いずれにせよ、聖書の中身に関するより重大な問題(「アラー」の使用の是非)を解決することになるだろう」と強調した。