世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会と世界イスラーム連盟(MWL)共催の「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム」が9日と10日、グランドハイアット東京(東京都港区)で開催された。開会セッションでは、WCRP日本委員会の庭野日鑛(にわの・にちこう)会長と、MWLのアブドッラー・ビン・アブドルムハセン・アルトルキー事務総長が基調発題を行い、諸宗教間の対話を訴えた。
過激行為に走る危険性、誰にでもある
庭野会長は発題で、人間はどんなに素晴らしい宗教に出会ったとしても、触れ合う世俗的な縁によって、善にも悪にも無限に変化すると指摘。他者に不寛容な態度を取るばかりではなく、過激な行為に走る危険性もあると語った。これは「誰にでも起こり得ること」だと庭野会長。「イスラム、キリスト教、仏教など、それぞれの宗教を信奉する人々の中に、現在、また過去において、宗教的理想と平和への責任に背いてきた人は、ただ一人としていなかったか」と問い、宗教者が各宗教の過去・現在を冷静に問い直す必要があると語った。
庭野会長は、複雑で困難な課題が多くある中、WCRP日本委員会とMWLが協力して対話プログラムを開いたことを評価。「特にアジア地域の調和に向けて、非常に貴重な一歩であり、今後につながる有意義な試み」だと、その意義を強調した。
在家仏教教団の立正佼成会会長である庭野会長は、仏教の象徴であり、泥水の中でしか咲かず、より濃い泥水の中で大輪を咲かせるという蓮華の花を例に挙げ、「泥とは、いわば私どもが直面している諸課題になぞらえることができます。そして、そうした困難な状況にあるからこそ、諸宗教者が協力して、努力、工夫を続けるのであり、その中で、各々が宗教の本質に帰ることができるのではないでしょうか」と問い掛けた。
紛争の原因、宗教ではない
サウジアラビアから来日したアルトルキー事務総長は、世界の紛争は宗教が原因ではないとし、手段として宗教を利用したとしても、宗教が呼び掛けるのは寛容さであり、また公正な在り方だと主張した。「世界の戦争のほとんどは、宗教が衰えることが原因です。物欲におぼれ、植民地主義的な利益を増長させ、利己的な政策を進めるからです」と指摘した。
アルトルキー事務総長は、MWLが2月に「イスラムとテロの戦い」をテーマにした国際会議を開催し、各国から500人以上のイスラム教徒が参加したことを報告。会議では、世界中で繰り返されるテロ行為について、宗教や文明と連携したものではなく、テロリストが属する宗教を代弁するものではないことが確認されたという。またこの会議は、テロリスト諸組織の行為を強く非難するものとなったという。
一方、アルトルキー事務総長は、「国際社会が正義を実現し、弱者を助けるのに手間取っていることが、その原因となっている」と語った。イスラム教自体を脅威と考え、テロと結び付けることではテロに対抗できないと指摘。「それはイスラムの共同体、文明、その構成要素を攻撃することになります。それはテロに関与し、規則を無視し、導きに違反し、イスラム法に則らない連中を厳しく取り締まる15億人以上のイスラム教徒に対する明らかな不正であります」と批判した。
その上で、テロと戦う最善の策は、諸宗教と諸文明間の対話だと述べ、「相互理解と共生を推進して、悪化する世界の紛争を軽減しなければなりません。それが世界の平和と互いの理解を確保するものであります」と語った。さらに、テロ対策としてだけではなく、倫理・道徳上の諸問題に対処するためにも協力が望まれると述べた。
アルトルキー事務総長は、グローバリズムがもたらした倫理・道徳上の諸問題として、無宗教やアナキズム、腐敗などを挙げた。同事務総長は、これらは人間の価値を傷つけ、道徳的水準の低下を招き、社会的分断を生じさせ、さらには戦いを増幅させ、想像を絶する惨劇を招来していると語った。
そして発題の終わりには、「現在、われわれは共有する人間的な価値などを活用して、これらの挑戦に立ち向かうべきです。世界は小さな村となり、諸問題の解決に取り組むために、種々の見解を近づけることができます。そのようなアプローチが挑戦への最善の対処方法なのです」と語った。
一方、開会セッション終了後に行われた記者会見で、アルトルキー事務総長は、中東におけるイスラム教とキリスト教の共存関係についての質問に対し、「過去、イスラム黎明(れいめい)期においてそうであったように、イスラム教徒とキリスト教徒は仲良く共存してきたわけです。ですから、昨今、問題が生じているとすれば、それはお互いの仲を裂こうとする悪い企みを抱く人たちの手によって起こされているのです。イスラムやイスラム教徒の本来の姿では決してありません。過去そうであったように共生できるはずですし、すべきであります」と答えた。