同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)センター長の小原克博・同大神学部教授は2日、本紙の取材に応じ、「中東の混乱の中で、かつて共存していたイスラム教徒と少数派キリスト教徒の関係も破綻しつつある」などとメールでコメントした。
キリスト教思想、宗教倫理、一神教研究が専門の小原教授は、1月28日に開かれた同大大学院博士課程教育リーディングプログラム「グローバル・リソース・マネージメント」の国際会議「中東崩壊の抑止」に参加。「『イスラム国』をはじめ、激しく変化する中東情勢を分析したり、予測したりすることは決して容易ではない」としつつも、「しかし、それがどのような歴史的因果関係のもとに生じたのかという点については、しっかり押さえておく必要があるだろう。(「中東崩壊の抑止」国際会議で)講演者たちが言及していたように『イスラム国』はイラク戦争の産物であるし、そもそも混迷する中東は欧米列強の植民地支配の産物であって、突如として『イスラム国』が生じたのではない」と指摘した。
こうした中、「あらためて思うのは日本の政治的スタンス」と小原教授は言う。「中東の人々から、日本はどちらの側に立とうとしていると見られているのか。イラクに侵攻し、なおも空爆を続けるアメリカの側なのか、あるいは、困窮にあえぐ人々の側なのか。安倍首相の発言を聞く限り、たとえ『人道的支援』という言葉が出てきても、日本は前者の側にいるように思われるのではないだろうか。国際社会(実際にはアメリカ)と共に対テロ戦争を戦う、という主張を声高に繰り返すのではなく、これまでの中立的な立場を堅持し、JICA(国際協力機構)等の人道的支援によって存在感を示すべきである」と主張した。
また、「中東の混乱の中で、かつて共存していたイスラム教徒と少数派キリスト教徒の関係も破綻しつつある。長い共存の歴史が21世紀になってからのごくわずかの期間に失われようとしているのは悲劇である。宗教的・民族的少数派が安心して暮らせる中東を回復するのに、果たしてどれくらいの時間がかかるのだろうか。暴力・武力がもたらす破壊力の大きさを嘆かざるを得ない」と語った。
同大学の高等研究教育機構と大学院グローバル・スタディーズ研究科、大学院理工学研究科が主催し、CISMORの共催によって開かれたこの国際会議では、トルコの元外務大臣で元大使のヤシャル・ヤクシュ氏が、「中東における人間の安全保障のさらなる悪化をどう防ぐか」と題して基調講演を行った。
また、シリア暫定政府外務局長のホサム・ハフェズ博士、ファティーヒ・スルタン・アフメット大学(トルコ)のレセプ・セントゥルク教授、デモクラシー・レビュー元編集長で、エジプト・アル・アーラム政治・戦略研究センター研究員のベシール・アブデルファッター氏がそれぞれ発題した。
ハフェズ博士は中東の全面崩壊をどう防ぐかについて発題し、「中東の困難を抱えた国々に積極的な政治的関与」と「包括という概念を政治と社会の分野に適用すること」が、昨今の中東危機に対する答えだと述べた。
セントゥルク教授は「中東における多様性の統治と正当性をどう回復させるか」と題して発題。「中東における新しい正当性のシステムは伝統的なイスラームの多様性の統治と、シャリア(イスラム法)の目的が普通の人々の生活に届くことという、二つのことに根ざさなければならない」と提案した。
そして、アブデルファッター氏は「イスラム国に対する戦争と中東崩壊の予防」と題して発題を行った。同氏は、中東の崩壊は基本的に「アラブ諸革命のイスラム化」「アラブ諸革命の軍事化とそれらの分派化」「イスラム国とその味方たちに対する戦争の分派化」「信頼の危機の深刻化」「近隣諸国に対するアラブの対決」「パレスチナ問題が解決に達せず、より複雑になりつつある」「この地域にある一部の諸国家の経済的な崩壊」「水の貧困の深刻化と水をめぐる戦争の脅威」「石油やガスといったエネルギー資源をめぐる紛争」「地理戦略的な根拠に基づいてこの地域の地図を書きかえる西洋の企て」という10の脅威に根ざしていると述べた。
小原教授はこの会議について、「トルコ、シリア、エジプト、ロンドン等、海外からの招聘者のほか、日本のマスコミ関係の方々も参加し、クローズド・セッションおよび公開講演会において多くの刺激を受けることができました」と、ブログなどで述べていた。
なお、小原教授は、CISMORのウェブサイトにある「ユダヤ教・キリスト教・イスラームの共存と平和構築を目指して」と題するあいさつ文の中で、CISMORは「一神教と一神教世界について学際的で総合的な研究を行い、その研究成果を世界に向けて発信し、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム世界の『仲介者としての役割』を果たすことを目指しています」と述べている。