英国国教会内で最も影響力のある福音派の一人が、同性愛者であることをカミングアウトした。
ジェーン・オザンヌ氏(46)は、英国国教会全体を統治するために設立された内閣のようなスタイルの組織、大主教評議会(Archbishops’ Council)の創始期のメンバーだ。オザンヌ氏は卓越したキャリアと奉仕の経歴を持ち、元カンタベリー大主教のジョージ・ケアリー男爵や、現カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビー氏を含む、同教会の指導的立場にある聖職者らと年長にわたって働き共に祈ってきた。
2日、オザンヌ氏が性的少数派を受け入れる運動をするキリスト教団体「アクセプティング・エバンジェリカルズ(受け入れる福音主義者)」の代表となることが発表された。この団体の後援者には、バプテスト派のスティーブ・チョーク牧師やワーシップリーダーでコメンテーターのビッキー・ビーチング氏らがいる。ビーチング氏は昨年、同性愛者であることをカミングアウトし、福音派の間を大きく騒がせた。
以前は英国国教会の正統派に属し、性の在り方に対して厳格な保守的立場を採っていたため、オザンヌ氏は、同教会のリーダーたちの団体の一つに、数年前、秘密裏に心を動かすような手紙を送って自らの性を明らかにした。オザンヌ氏の歩んだ道をリークしたのは、その手紙を受け取った人たちではなかった。
オザンヌ氏は、英国クリスチャントゥデイの取材を受けることで、このことを公にすることを決断した。公にすることで、現在、同教会を二分する問題である性の在り方について、よりよく理解を助けることができると考えてのことだ。多くの人と同じように、オザンヌ氏も同教会がその内紛を終わらせ、宣教や社会正義のようなもっと喫緊の事態に目を向けられるよう願っている。
「これは正しいか間違っているかの問題ではなく、キリストの福音についての問題です。私にとっては、ざっくり言えばこの問題は聖書の理解についてのことなのです。神は驚きの神です。私たちは、将来何が起きるかを確信することは決してできません。しかし、私が確かに知っていることは、神はいつも私たちのもっとも暗い時間を何か美しいものに変えてくださるということです。私は個人的に、私たち教会にとって重要で興奮を覚えるこの時期に、『アクセプティング・エバンジェリカルズ』で奉仕できることに興奮しています」
アクセプティング・エバンジェリカルズは、今や誠実で愛のある同性愛のパートナーシップを、教会生活の全てにおいて受容するために前進する時が来たと考える福音的キリスト教徒なら、誰でも参加できるネットワークだ。
非常に優れた能力を持つオザンヌ氏が、福音派における同性愛者の平等を啓発するキャンペーンのシンボルとして出現することで、同教会は性の在り方についての対話に参加するようになった。以前は保守派であったが、今は同性愛者であるキリスト教徒の側についたことで、オザンヌ氏のカミングアウトは教会へ通う多くの人を驚かせるだろう。そして、キリスト教徒を二分する激しい議論を引き起こしているこの問題に対して、同教会内の主流派である福音派も関わるようプレッシャーがさらに強まるだろう。
保守的な福音主義者たちは、世俗的な基準に対して妥協することを強く拒否している。そして、性の在り方は多くの教会にとって、個人がキリスト教の正統派の信仰を抱いているかを試すリトマス試験紙となっている。保守派のグループ「リフォーム」は、協議することによって変化へと促されることを危惧し、「対話」をボイコットするよう呼び掛けている。
1999年に大主教評議会の一員となってから、オザンヌ氏は英国内外において高位の地位を保ち続けた。オザンヌ氏は同教会の総会、中でも宣教と伝道の領域において深く関わっていた。当時のオザンヌ氏の性に対する見方は、本人の言葉によれば「極端に白か黒か」であり、同性愛者であるキリスト教徒は、神か同性愛の関係かを選択しなければならないと考えていたという。当時から今まで保守的な福音派が一般的に考えていることとして、オザンヌ氏は神と同性愛は互いに相容れないものと捉えていた。「私は、同性愛者であることとキリスト教徒であることは両立できないと信じていました」
評議会で奉仕する前、オザンヌ氏は国際マーケティングの分野において、フェアリー・リキッド(英国の洗剤などのブランド)からBBCまで、一般人にもなじみのあるブランドで手腕を振るってきた優れたキャリアを持っていた。オザンヌ氏は、多くの著名な福音派の教会で、活発な信徒指導者として活動し、トリニティ・カレッジ、英国国教会新聞、コベントリーにある「和解のための国際センター」などの理事を歴任。その間、後にカンタベリー大主教となるジャスティン・ウェルビー氏や、バグダッド教区司祭のアンドリュー・ホワイト氏の下で働いた。
しかし、それと同時期に、オザンヌ氏は自分の性と闘っており、「治癒」ないし変化の希望を持って、何回もミニストリーを受けた。英国クリスチャントゥデイとのインタビューで、オザンヌ氏は、善意の聖職者から「解放のミニストリー」として知られるもののほとんど全てをくり返し受けたものの、悪魔的とみなされる性的指向を取り去ることはできなかったと話した。
2009年、オザンヌ氏は、友人、家族、そして教会の指導者たちにカミングアウトした。そして初めての交際相手ができたが、現在オザンヌ氏は独身だ。
オザンヌ氏の業績には、2つの国際慈善団体を設立したこと、世界の王室と共に働いてきたこと、またトニー・ブレア元英首相が設立した財団「フェイス・ファンデーション」の役員を務めたことも含まれている。さらに、BCCのテレビ・マーケティング担当主任を務め、またP&G社とキンバリークラーク社でもマーケティングを担当した。
5年前の手紙では、性の在り方との闘いによって、挫折に追い込まれたことを明らかにしている。オザンヌ氏は、「不幸にも私は、性の在り方と霊性の大きな対立の中を戦っていました。そして、ある女性の友人から自分自身を隠そうとしている自身でも望んでいない感情に気づき、怖くなったのです」と書いている。
挫折のあと、精神科医に性の在り方について話したところ、宗教を変えるよう助言された。
「神が私たちを捨てた、と信じてしまったときの絶望感を表現できるものはありません。そして死を慕うとき、それは来ないのです。
総会での同性愛についての最初の討論を、愛されることを望んで内面で闘ってきた人の遺書を引用して終えたことを覚えているかもしれません。しかし、この飢餓感を唯一満たすのは、『禁じられた果実』だということは分かっていました。この手紙は、私自身が痛みのさなかに書いたものです。被造物から創造主への叫びで、なぜ私がこのようなひどい分断を持つよう造られたのか尋ねています」
そして、いつか幸せな結婚をし、毎日祈られることを望んでいた。オザンヌ氏は、「私は全てのものを自分の外に出しました。2回以上出したものもあるでしょう。そして、さまざまなプロセスに身を置きました。私はその全てに賛同しているわけではありませんが、私がこの道を先導する神を信頼するなら、道を歩む中で主は、私が最終的に正しい方向へ到達できるかどうか、ずっと見守ってくださるでしょう」
しかし、性的関係と愛を求める心は変わらずあった。「私はやっと、あれだけ願った性的関係が基本的な人間の欲求であって、人間はみなそれを持って生まれてきていることを理解しました。それは人であることから来るもので、正しい人はそれによっていのちを手にします。それを抑圧しようとするのは、ただ私を死へと導いただけでした」
オザンヌ氏はインタビューで、解放のミニストリーを行う牧師が彼女の性の在り方を「追い出そう」としていたとき、「自分から自分を追い出そうとしているよう」に感じたと語った。「何をしても変わらなかったのです」。これらの経験によって、自身に何かひどい異常があるのだろうと感じたという。
オザンヌ氏はまた、大主教評議会に在任していた間、一生独身で神に仕えられる「恵み」のために何年も祈ったと述べた。それはほとんどオザンヌ氏を死に追いやるところだった。「私は孤独に対処することができませんでした」と、創世記2章にある神が人間に一人でいることはよくないと語った箇所を引用して述べた。そしてついに、特別な人と出会い、約5年間にわたって交際してきた。
オザンヌ氏は、教会に再びつながるためにカミングアウトすることについて、ビッキー・ビーチング氏からヒントを受けたという。オザンヌ氏は「切り離され」、「あたかも自分が世界で唯一の同性愛者である女性福音主義者であるように」感じた。現実がそうであるわけではないが、他の人のことをただ知らなかったからだ。今では、多くの同様の人と出会えているという。「互いの話を聞き、抱擁し合うことを学ぶ必要があるのは、どこよりも福音派の教会でしょう」とオザンヌ氏は言う。
オザンヌ氏は、間もなく退任する予定のベニー・ヘーゼルハースト氏の後任として、アクセプティング・エバンジェリカルズの代表に就任する。ヘーゼルハースト氏は、「この10年間で、福音派の世界での素晴らしい変化の始まりを見てきました。しかし、それはまた厳しい闘いでもあり、私は休養し充電する時間を取り、将来に対して神を求める時間が必要になりました。
私はジェーン(・オザンヌ氏)がアクセプティング・エバンジェリカルズに加わり、指揮を執ろうとしてくださることを嬉しく思います。彼女は志が高く、福音派の世界でも膨大な経験を積んだ成熟したキリスト教徒です。そして教会の多くの重鎮たちにも素晴らしい人脈があります。これからの数カ月間、彼女と共に働くことは大きな喜びとなるでしょうし、アクセプティング・エバンジェリカルズにとってふさわしいときに、ふさわしい人が与えられたことを神に感謝します」と語った。