日本キリスト教婦人矯風会(東京都新宿区)性・人権部門長で同元会長の高橋喜久江さんが本紙とのインタビューに応え、キリスト教主義の北星学園大学(北海道札幌市)が昨年12月17日に元朝日新聞記者で同大非常勤講師の植村隆氏との2015年度の講師契約を更新すると発表したことについて、「これを出されてよかったと思う。これでこそ北星学園(としての)大きな道だと思います」と評価した。
同会は昨年11月、同大に対し、平和を脅かす言動に屈することなく大学の自治、言論、学問の自由を堅く守ることを要望する書簡を送付したと発表。高橋さんは、同会の川野安子理事長との連名でこれに署名していた。「この書簡(の宛名)に『学生の皆様』と付け加えたのは私なんです」と、1933年生まれの高橋さんは語った。
同大には、植村氏が朝日新聞の記者時代に書いた慰安婦問題に関する記事は捏造(ねつぞう)だなどとして、植村氏の講師採用に対して抗議や脅迫が寄せられていた。一方、植村氏自身は『文藝春秋』(2015年新年特大号)で「慰安婦問題『捏造記者』と呼ばれて」という反論の手記を記している。
また、植村氏は昨年12月21日付の韓国のハンキョレ新聞とのインタビュー記事で、「私が書いた慰安婦記事はねつ造ではない・・・右翼の脅しには屈しない」などと語っている。
『売買春問題にとりくむ 性搾取と日本社会』(2004年、明石書店)の著書がある高橋さんは、「日本社会は男尊女卑で、官尊民卑だと思う」と語った。慰安婦の問題でもそうだという。同書の2章「慰安婦問題と人権 アジアとの連帯のために」で、高橋さんは1990年代に自らが慰安婦問題に取り組んでいたときのことを記している。
『日本キリスト教婦人矯風会 年表<一八八六年〜二〇〇六年>』には、1990年12月、「韓国挺身隊問題対策協議会に協力、資料情報送付。尹貞玉挺対協共同代表を迎え集会開催、来日活動に協力」と記されている。
「日本をひっくり返したい」と高橋さんは、昨年12月の衆議院選挙の結果に触れて語った。「政治を動かすのは主権者であり市民。同じ敗戦国のドイツに比べて、日本はだらしない」と厳しい。
「日本の政治動向に落胆するけれども」とがっかりした表情で語りながらも、北星学園大学の決定は「勝利」であり、「私たちも一生懸命したことの一つ」と振り返った。
高橋さんは慰安婦問題について、日本政府は「(慰安婦にされた)個々の女の人たちに謝ることと補償を」と訴えた。また、「日本キリスト教会の渡辺信夫(牧師)夫妻の取り組みは素晴らしい」と述べ、台湾の元慰安婦たちを支援してきた同夫妻の働きを称えた。
高橋さんは1957年に矯風会に就職し、73年発足の売春問題ととりくむ会事務局長を兼務。現在も売買春問題ととりくむ会事務局長を務めている。早くから慰安婦問題に国際的に取り組み、2004年5月まで矯風会会長を務めた。現在は同会会員であると同時に、社会福祉法人慈愛会理事長も務めている。
売買春問題ととりくむ会は、衆参両院議長に対する「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案の早期成立を求める請願書」を作成し、署名者を募っている。
「売買春問題ととりくむ会ニュース」(2014年11月12日号)によると、高橋さんは外務省が昨年6月に作成した女性と平和・安全保障に関する国連安保理決議1325号日本版行動計画について、「女性・平和・安全保障に関する行動計画パブリックコメント」を内閣府に提出したという。
その中で高橋さんは、「序文に日本軍『慰安婦』問題を取り上げるべきである」「日本として反省し、国際社会に恥ずかしくない態度を示さなくてはならない」などとした上で、「政府主導により、多くの主権者が納得する解決方法が早急にとられるよう、女性として行動する」と述べている。
なお、同じく北星学園大学を支援していた「負けるな北星!の会」(略称マケルナ会)は昨年12月18日、「北星学園大学が非常勤講師の雇用継続を決定したことについて」と題する声明を発表し、「不当かつ犯罪的な要求・攻撃に屈することなく、このような英断を下された北星学園大学学長ほか、関係者の皆様へ深く敬意を表します」などと述べている。