沖縄宣教研究所所長で沖縄バプテスト連盟神愛バプテスト教会牧師の饒平名長秀(よへな・ちょうしゅう)氏の講演録や教会での説教などをまとめた著書『待ちつつ、早めつつ~キリスト道に生きる~』がこのほど、神愛バプテスト教会から出版された。同氏の共著や論文はこれまでにも多数あったが、著書としては初めて。収められた11編には、沖縄、そして差別、搾取、抑圧などの中で生きる人々への、キリストによる希望と解放のメッセージが散りばめられている。
饒平名氏は1934年に那覇市で生まれた。生後すぐに父親が亡くなり、宮古島で母子4人の厳しい生活を送る。母親の事情により、5歳で植民地・台湾に渡り、学齢期のほとんどを過ごす。敗戦後は、沖縄と本土を往復する生活を送った。岡山での大学生時代には、沖縄についての無知無理解からくる差別に何度も出会った。台湾の植民地支配の原体験に輪をかける結果となったという。
沖縄に帰ってからも、琉球人としてのアイデンティティーをどうしても確立することができずに苦しむ中で、那覇バプテスト教会牧師の故・照屋寛範氏との出会いを通してキリスト教に出会った。そこではじめて、人間としての自己、琉球人としての自己を発見し確立できたという。
冒頭のまえがきでは、「著者は常にその『運命(さだめ)』に翻弄され、苦しみ、悩みそして自己定位を得たように思います。従って著者には、貧しき者、迫害されている者、差別されて流浪する者の視点を欠かすことは出来ません。そしてどれだけ現実化できたかは別として、常にそこに立つ、立とうと歩んできたつもりです。それが又、キリスト教徒(弟子)の教徒たるゆえんだと信じております」と語る。
その上で、「キリスト教徒の伝道(宣教)は自らの立つ現実(例えば沖縄という現場)を遊離するなら、その宣教の言葉は単なる“おしゃべり”と化してしまうのではないでしょうか」と問い掛け、「このような著者の提言がいささかなりとも、沖縄の宣教―自由と解放に資することが出来れば望外の幸せ」と述べている。
あとがきで同教会「饒平名長秀牧師記念誌発刊委員会」委員長の上地桐代氏は、今回の出版について、「待望の書籍化であり、私ども信徒にとっては念願の一冊」と喜びを語り、「一人でも多くの方にお手にとっていただき、これからの歩みにおける道標の一つとしてくださいますなら」と期待を述べた。
目次は次の通り。
まえがき
【Ⅰ 講演】
革命者イエス
(饒平名長秀牧師 退任記念講演会 2013年11月4日)
沖縄の歴史と文化
(沖縄宣教研究所・富坂キリスト教センター(第一回)共同研修会 2013年2月26~28日)
植民地主義とキリスト教
―「韓国併合100年」を覚えて、沖縄で「日本による植民地支配」を考える―
(沖縄宣教研究所・沖縄キリスト教学院・日本キリスト教協議会教育部共催 2010年11月23日)
平和憲法の光と影
沖縄から日本国憲法を見る―第九条を中心に
(日基教団・北支部・社会部・教育部・沖縄委員会 共催学習会 2007年10月12日)
国家・沖縄・キリスト教
―沖縄の現実から―
(日本福音同盟社会委員セミナー 沖縄宜野湾セミナー・ハウスに於いて 1999年2月)
【Ⅱ 論文】
沖縄から見た日本プロテスタント
―私たちは歴史によって圧しつぶされている(R・グールモン)―
沖縄とキリスト教
―漂流する沖縄・天の御国を目指しての終わりなき旅―
【Ⅲ 説教】
キリスト道―命への道
恵まれた女よ おめでとう
【Ⅳ 付論】
祖先崇拝と福音宣教 ―啓蒙と変革の立場から―
『福音と医療』とは ―これまでの経過と展望―