ルーテル学院大学と日本ルーテル神学校による「一日神学校」が9月23日、東京都三鷹市にあるルーテル学院キャンパスで開催された。当日は、同学院の柱であるキリスト教・福祉・臨床心理の3つの分野から8つの講義が開かれ、約600人の来場者はそれぞれ希望する講義を聴講した。講義の他に、「こどもしんがっこう」や「ティーンズのためのプログラム」「チャペルコンサートと在学生スピーチ」も開催され、幅広い世代の人々が集う「一日神学校」となった。
開会聖餐礼拝は、式文に従って厳かに執り行われた。同大学の江藤直純学長は、チャペル後方に掛けられている巨大な木彫りのレリーフを題材に説教を取り次いだ。
「派遣」と題されたこのレリーフには、中央にイエス・キリスト、イエスを取り囲むように弟子たちが彫られている。弟子たちは、パンやスープ、温かい毛布を飢えた人々に分け与えている。レリーフ全体を見渡すと、大きなイエスの全身に対して、その手が小さく彫られていることに気が付く。その小さな手は、「私たちの手」であると江藤学長は語った。私たちの小さな手が主イエスの手となり、人々へと遣わされる。パンやスープ、毛布に象徴される、いのちの糧を分かち合う弟子たちの姿に倣って、同学院が掲げるように「『キリストの心』をとなりびとへ」届ける一人ひとりであるよう励ました。
今年の一日神学校では、午前には、「歴史の中のルターと聖書~メリアン聖書の発見から~」(徳善義和名誉教授)、「知的障害者と関わって見えてきたこと」(西原雄次郎教授)、「キリシタン能 遠近(おちこち)~ルターとパウロ他~」(上村敏文准教授)の3つの講義が開講。午後には、「神様の贈り物~人間のパーソナリティ(気質・性格)を考える~」(ジェームス・サック教授)、「子どもの支援に大切な知識・技術・こころ~学生はいかに学んでいるか~」(加藤純教授)、「人々の権利を実現するということ~『障害者の権利に関する条約』のメッセージ~」(高山由美子教授)、「心が疲れている子ども~疲れない心とからだをつくる生活リズム~」(田副真美准教授)、「ケアする人へのケア~地域で支えあうということ~」(山口麻衣准教授)の5つの講義が開講した。
徳善名誉教授による「歴史の中のルターと聖書~メリアン聖書の発見から~」は、この日公開された1630年発行のルター訳聖書「メリアン聖書」の関連講義として、同大学チャペルで行なわれ、多くの聴講者が参加した。
昨年9月、耐震工事後の同大学図書館で発見された「メリアン聖書」は、これまで約4カ月にわたる修復作業が行なわれていた。全国から多くの人が訪れる一日神学校に合わせ、今回一般には初公開。380年以上前に出版され、マテウス・メリアンによる銅板画約230枚が入った重さ約7キロにもなる大判聖書を、多くの人が興味深そうに見入った(関連記事:384年前出版のルター訳「メリアン聖書」、ルーテル学院で原本公開)。
昼には、スオミ・キリスト教会などの各教会や、日本福音ルーテル教会の東教区女性会などの各グループがミニショップを出店し、お菓子やおしるこ、また絵葉書や手工芸品の販売を行った。社会福祉法人おおぞら会に属する就労支援施設「工房 時」も、クッキーと手工芸品の販売を行なった。一足先に手作りのクリスマスカードやクリスマスオーナメントも店先に並び、会場となったホールや中庭は多くの人で賑わった。
午後は、講義と並行して、チャペルコンサートと学生スピーチも開催された。同学院のハンドベルクワイア「ラウス・アンジェリカ」(ラテン語で、天使の歌声の意)が、「Cantabile-A Singing Spirit」「Believe」「The Water Is Wide」を披露した。低音を出すための大きなハンドベルも使用され、美しいメロディとダイナミックなリズムがチャペルに響き渡った。
暗譜で歌う、アカペラで歌う、日本語で歌うことを大切にしているという同大学・神学校の聖歌隊は、「新しきうたもて」「あぁ、鹿の渓水(たにがわ)を」「ハレルヤ」の3曲を歌い、主を賛美できることの素晴らしさを聴衆とともに共有した。
また曲間には、キリスト教学科2年生の女子学生と、神学校1年生の男子神学生がスピーチを行い、愛する家族のために祈る使命が与えられていること、母教会から神学校に遣わされ、大学内において神の宣教に携わっていることの喜びをそれぞれ分かち合った。
一日神学校では毎年、閉会礼拝を「派遣礼拝」と呼んでいる。派遣礼拝では、「こどもしんがっこう」に参加した子どもたちが学んだことを発表した。子どもたちは、善きサマリヤ人のたとえ話から、出て行って助けを必要としている人たちに仕える大切さを分かち合った。羊を助け出すゲーム、友達にお菓子を差し出すこと、手を合わせて祈ることを通して、イエスがそうしてくださったように、この手で誰かを支えることを大切にするのだと学んだ。子どもたちは、「私たちがイエス様の手だからです」と大きな声をそろえて発表した。
ルーテル学院大学と日本ルーテル神学校は、今年4月に学長と校長が新しく就任し、新体制下で大きな改革がなされてきた。同神学校の石居基夫校長は、「今年は大きな変革をした。いろいろな時代にいろいろな形を持つが、クリスチャンもそうでない人もここで聖書にふれ、神様の恵みを沢山いただいて、ここからそれぞれの生活の場や働きの場に遣わされる。そういった学校であり続けたいと思っている」と挨拶した。
集った人々は、オルガンによる後奏に合わせて順に退場し、イエス・キリストの手として、それぞれの場所に派遣されていった。