[1]序
今回はダニエル8章後半に注意を払います。
[2]「解き明かす者」(15~18節)
(1)ダニエルの願いと限界
①ダニエルの願い
「私、ダニエルは、この幻を見ていて、その意味を悟りたいと願っていた」(8章15節)。このダニエルの願いは聞かれ、天使ガブリエル(9章21節、ルカ1章19節、26節)が「その幻を悟らせよ」との使命を委ねられ送られるのです。
②ダニエルの限界とそれを越えて
ガブリエルの到来に接して、ダニエルは、「恐れて、ひれ伏した」(8章17節)と記されています。そのダニエルに、「悟れ、人の子よ」(8章17節)と呼び掛けがなされます。
「人の子」との表現は、エゼキエル2章1節、「その方は私に仰せられた。『人の子よ。立ち上がれ。わたしがあなたに語るから』」に見るように、人間の弱さを強調しており、幻を見ても自らではその意味を悟ることのできないダニエルの限界を示していると考えられます。そうです。意味の理解のために、解き明かす者を必要としているのです。
ダニエルの限界は、27節の最後・8章の結びのことば、「しかし、私はこの幻のことで、驚きすくんでいた。それを悟れなかったのである」により、さらに強調されています。解き明かしを聞いても、なお理解困難であったのです。
そのようなダニエルに対して、9章22、23節に見ることばを再びガブリエルが語りかけています、大きな慰めです。
「私に告げて言った。『ダニエルよ。私は今、あなたに悟りを授けるために出て来た。あなたが願いの祈りを始めたとき、一つのみことばが述べられたので、私はそれを伝えに来た。あなたは、神に愛されている人だからだ。そのみことばを聞き分け、幻を悟れ』」
(2)「悟る」とは
解き明かしによってその意味を理解している実例をネヘミヤ8章1節以下に見ます。8節には、「彼らが神の律法の書をはっきりと読んで説明したので、民は読まれたことを理解した」とあります。律法を悟るとき、民は二つの経験をします。
9節の後半に、「民が律法のことばを聞いたときに、みな泣いていた」とあります。悟るとは、第一に自分の実状を分かり悔い改めることを含みます。同時に8章12節に、「大いに喜んだ。これは、彼らが教えられたことを理解したからである」とあるように、悟るとき民は喜びに溢れるのです。
[3]解き明かしの内容(19~27節)
(1)いつのときについてか
「終わりの時」(17節)、「終わりの憤りの時」(19節)、「終わりの定めの時」(19節)。これは、シリヤのセレウコス王朝の第8代の王アンティオコス・エピファネス(在位紀元前175~164年)と、主イエス・キリストの初臨と再臨も含めた新約時代全体に及ぶ未来と二重の意味との理解、示唆に富みます。
(2)「雄羊の持つあの二本の角は、メディヤとペルシヤの王」(8章20節)
(3)「毛深い雄やぎはギリシヤの王」(8章21節)
(4)「大きな角」(8章21節)
アレクサンドロス大王(在位紀元前356~323年)。
(5)「その角が折れて、代わりに四本の角が生えたが、それは、その国から四つの国が起こることである」(8章22節)
アレクサンドロス大王は32歳にして、熱病のため突然の死。その後領土は四分され、部下によって支配されるようになったことを指すと考えられます。
(6)焦点は23節から25節に見る「横柄で狡猾なひとりの王」の言動
シリヤのセレウコス王朝第8代の王アンティオコス・エピハネス(在位紀元前175~164年)を指す。
9節から12節に描く事柄も参照。特に25節、「彼は悪巧みによって欺きをその手で成功させ、心は高ぶり、不意に多くの人を滅ぼし、君の君に向かって立ち上がる。しかし、人手によらずに、彼は砕かれる」の描写が頂点。
(7)26節と27節
[4]結び
(1)ダニエルにとっての悟り
前回は、「その後、起きて王の事務をとった」(8章27節)とある、その時点ですべてを完全には悟り得ない中にあっても、ダニエルが成長させて下さる神の恵みに答えて日常生活での義務(正しい努め)を果たし続けている姿に習い、私たちもそれぞれの場で前進させて頂きたいと考えました。
今回は、そのダニエルに対して、やがて9章22、23節、「私に告げて言った。『ダニエルよ。私は今、あなたに悟りを授けるために出て来た。あなたが願いの祈りを始めたとき、一つのみことばが述べられたので、私はそれを伝えに来た。あなたは、神に愛されている人だからだ。そのみことばを聞き分け、幻を悟れ』」のことばが与えられた事実に注意し、みことばと祈りを通して民に悟りを与えなさる神の恵みを待ち望みたいのです。
(2)25節に見る「横柄で狡猾な王」・エピファネスの最後についての描写
「欺きをその手で成功させ」、すべてが順調に見える頂点にあって、「君の君」である神に立ち向かい破滅していく姿。
これこそ悪の力の最後です。エペソ6章10節以下に励まされ、勝利者イエスに従い、今週の歩みを続けましょう。
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宮村武夫(みやむら・たけお)
1939年東京生まれ。日本クリスチャン・カレッジ、ゴードン神学院、ハーバード大学(新約聖書学)、上智大学神学部修了(組織神学)。現在、日本センド派遣会総主事。
主な著訳書に、編著『存在の喜び―もみの木の十年』真文舎、『申命記 新聖書講解シリーズ旧約4』、『コリント人への手紙 第一 新聖書注解 新約2』、『テサロニケ人への手紙 第一、二 新聖書注解 新約3』、『ガラテヤ人への手紙 新実用聖書注解』以上いのちのことば社、F・F・ブルース『ヘブル人への手紙』聖書図書刊行会、他。