救世軍少佐の山谷真氏が25日、「イエスはマリアの血を受けたもうた」と題して自身の神学的見解を発表し、月経胎孕(たいよう)論への支持を表明した。山谷氏と同じく月経胎孕論を提唱する崔三更氏(韓国・光と塩教会牧師)をめぐっては、韓国基督教総連合会(CCK)をはじめ、自身の所属教団の大韓イエス教長老会(統合)や韓国で最大教団の大韓イエス教長老会(合同)でも論争が激化している。崔氏の三神論と月経胎孕論に関する論争の行方に韓国のキリスト教界の関心が集まっている。
月経胎孕論とは、「イエス・キリストはマリアの月経を通して生まれた」とする思想。崔氏は、韓国雑誌『教会と信仰』(05年8月号)で発表後、継続してさまざまな場で同論を主張してきた。CCKは、崔氏への厳罰を求める7つの会員教団の総務からの陳情書提出を受け、昨年10月7日の役員会後、CCKの秩序確立対策委員会(秩序委)に崔氏の調査を委任した。秩序委は約2カ月間、崔氏の発言の録音記録や雑誌上の記述などについて各界各層の教授や専門家を招いて精査し、同11月24日付で役員会に調査報告書を提出した。
秩序委の報告書によると、崔氏が『現代宗教』05年8月号に掲載した文章と大韓イエス教長老会(統合)第95回総会で委員らに配布した文書、自身が常任理事を務めるインターネット新聞「教会と信仰」などに掲載した内容の要約は、次の通りだ。
(1)イエスはマリアの月経によって懐妊され、生まれた。
(2)妊娠をすると月経はなくなるが、その月経が胎児のほうに流れ、「その血によって」赤ちゃんが育つ。
(3)マリアの月経がなければイエス・キリストは生まれることができなかった。
(4)マリアの月経なしにイエス・キリストが生まれたとすると人性が否定されてしまうことになる。
(5)マリアの月経によってイエスが胎内で10カ月間成長したのであり、月経がない場合、10カ月間もマリアのお腹にいらっしゃる必要がない。
(6)いわゆる月経による懐妊がイエスの神性を否定するなら、その言葉は論理的に正しい。
(7)イエスが月経によって生まれてないというのであれば異端的である。
(8)カルヴァンも「イエスはマリアの血(月経)と種(卵子)で生まれた」とした。
(9)神はマリアの卵子と遺伝子、水晶体などを利用して、イエスを懐妊させた。
(10)処女というのはマリアがヨセフの精液によって妊娠していないということだ。
これに対し、CCK秩序委は、調査報告書で次のように述べている。
月経胎孕論の第一の核心は、はたしてマリアの月経によってイエス・キリストが生まれたのかどうかということだ。崔三更牧師は「マリアの月経によってイエスが生まれてないとする場合、人間性が否定されてしまう」と主張し、「月経で生まれていない場合、マリアの胎内で10カ月間もいらっしゃる必要はない」とした。この言葉は、イエスがマリアの月経によって胎内で育ち、生まれたという意味である。つまり、月経によって生まれていない場合、人性が否定されるという主張だ。人性とは何か? 人性とは人になられたという意味だ。マリアの月経で生まれていない場合、崔牧師の主張通りなら、生まれてくることができない。人性が否定されてしまうという主張は、結局、マリアの月経がなければイエスが人になれないという意味だ。
(中略)月経胎孕論のもう一つの核心は、イエスの命は創造されたのか、それとも先在する神なのかどうかということである。
マリアの体から生まれたイエス・キリストの生命は、誰が与えたのか。どこから来たのか?聖書は、「聖霊によって生まれた」と話す。イエス・キリストの命が聖霊によるものであるという意味だ。その生命がマリアを通して肉体を得たのだ。
聖書にはレビ記17章14節で「すべての肉のいのちは、その血が、そのいのちそのものである」、レビ記17章11節で「肉のいのちは血の中にある」、創世記9章4節で「肉は、そのいのちである血のあるままで食べてはならない」、レビ記17章14節で「あなたがたは、どんな肉の血も食べてはならない。すべての肉のいのちは、その血そのものであるからだ」とある。
聖書は、血は命だと言う。そうであれば、マリアの血はマリアの生命である。マリアの血(月経)によってイエス・キリストが生まれたならば、イエス・キリストに命を与えたのはマリアだ。聖書は、マリアの体に宿っているイエス・キリストに命を与えた方は聖霊だと明らかに言っているのに、「マリアの月経でイエス・キリストが生まれた」と主張することは、結局、イエス・キリストに命を与えたのはマリアだという話になる。
マリアの血は、マリアの生命である。マリアの血によってイエス・キリストが生まれたという主張は、すなわち、マリアがイエスに命を与えたとの意味で、これはイエス・キリストの命が「聖霊によって生まれた」とする聖書を否定するものである。マリアの血がイエス・キリストに入った場合(母親の血が胎児に行くことはあり得ない)、イエス・キリストは、結局、マリアから命を得たのであり、そうするとしたら、イエス・キリストは人間マリアの血で生まれたことになり、私たちと変わらない人間になってしまう。したがって、「マリアの月経で生まれていない場合、イエス・キリストの人性が否定されてしまう」という主張は、結局、マリアの月経(血)がなければイエス・キリストが人になることができない(人性が否定されてしまう)という意味だから、イエス・キリストの命がマリアの血によるものであるという主張なのである。
(中略)月経胎孕論や三神論は、キリストの先在性を悪化させ、イエスの神性を毀損するだけでなく、マリアの月経がなければキリストの受肉は不可能だと主張し、聖霊によって生まれたキリストの人性を否定する異端思想である。キリストの神性と人性が否定されたり、弱体化したりする場合、これはキリスト論は勿論のこと、神論、救済論、贖罪論を崩す異端的主張である。
CCK「崔氏はカルヴァンを歪曲」とするも、山谷氏は崔氏に同調
山谷氏は今回表明した主張の中で、同論について「崔三更牧師の立場とカルヴァンの立場は完全に同一」「崔三更牧師と共にカルヴァンをも異端に定めることになる」と擁護した。CCK秩序委の調査報告書を見ると、崔氏も同様に「カルヴァンも『イエスはマリアの血(月経)と種(卵子)で生まれた』とした」と主張している。両氏の主張は同じだ。山谷氏が崔氏に同調していることがわかる。
カルヴァンをもちだす崔氏に対し、秩序委は調査報告書の中で、「カルヴァンを歪曲し、イエス・キリストの誕生に関して生物学的な主張をすることで笑い物にし、キリスト教信仰の根幹を根底から揺るがす結果をもたらした。これは、教会史に登場した異端者の中で最も邪悪な異端と言える」とした。さらに、「深刻な異端であり、神への冒涜を犯した崔氏の三神論と月経胎孕論に対して会員教団と団体に警戒を求め、以下のように決議して発表する。今後キリスト教界でこのような思想を主張したり、擁護したりすることは絶対あってはならない」と注意を呼び掛けた。
また、12月19日に公表した立場表明では、「2千年のキリスト教史上、類例がない神聖冒涜と言える。『崔三更神学』は禁断の門を越えてイエス・キリストの尊厳と正統キリスト教教理を毀損した。したがって、韓国のすべての正統教会と教人たちはこのような『崔三更神学』に眩惑されることがあってはいけないし、このような主張をする者を擁護するとか彼と交流することが絶対にあってはならない」と強調した。秩序委の調査報告書を受けてCCKは、12月15日の役員会で、同論を主張する崔氏について「極めて深刻な異端であり、神への冒涜」と決議した。
崔氏の月経胎孕論は、所属教団でも論争
崔氏が主張する月経胎孕論に関して、自身の所属する大韓イエス教長老会(統合)でも論争がある。同教団では崔氏による「妊娠すると母体の月経(血)が胎児に行く」との主張が、医学的に起こり得ないという指摘を受けるほど、深刻な論争が起きている。崔氏について「総会で三神論異端の決定が取り消されたことがない」と主張し、崔氏から名誉毀損容疑で告訴されていた同教団の元異端対策委員長のキム・チャンヨン氏は8月30日、韓国の最高裁判所で無罪確定判決を受けた。
崔氏は、「三つの霊の神」という表現を使用するなど、三神論を継続して主張したため、同教団の第87回総会で異端と認定された。当時の研究報告書では、崔氏が統合側総会の神学とは異なる奇跡終了論を主張したことに対しても、「非聖書的であり、ウェストミンスター信仰告白と我々の教団である長老派教会の信仰告白を否定するもの」との指摘があった。
キム氏は09年10月19日、韓国クリスチャントゥデイのインタビューに対し、「崔三更牧師は三神論思想を持つ者として決議され、以後中会が指導したという公文書を受けただけで、他の決定をした事実はない。ところが、そのような者が、CCKだけでなく、統合の異端対策委員会で活動しながら多くの問題を引き起こし、結局、その責任が総会に帰結されることになった。異端思想をもつ者が異端を探し出して処罰するのなら、誰がその決定を受け入れることができるか」と述べていた。
崔氏は裁判で、「本人は統合で異端認定されていないので、解除云々すること自体が虚偽であり名誉毀損」と主張していた。しかし、最高裁は今回の判決文で、「崔三更牧師は統合で異端として決議され、これが適法な手続きによって破棄されたことがない」とするキム氏の主張を認めた。
同教団では、総会で議案を通過させるためには、総会の3カ月前に中会を通して議案を提出しなければならない。しかし、崔氏はその過程を経ず、自身を異端解除することを、総会のわずか1週間前に開かれた同教団の異端似非対策委員会の緊急会議で緊急案件として決議させ、今月の教団総会に提出した。同委員会の委員長は崔氏自身である。
韓国最大の教団で崔氏の月経胎孕論は異端決議
韓国最大の教団である大韓イエス教長老会(合同)で、崔氏は異端と決議されている。昨年12月30日にソウル大峙洞の総会会館で開かれた大韓イエス教長老会(合同)第96回総会2次政策実行委員会で、役員会に上程された「崔三更牧師異端認定同意要請の件」が満場一致で通過した。
同教団では、ムン・セチュン氏を委員長とする「崔三更異端処理委員会」が構成され、研究報告書が作成された。報告書の中で同委員会は、「崔三更は改革主義信仰に反する異端で、彼を擁護する雑誌『教会と信仰』を含め、庇護するすべての勢力はその同調者」と表明した。
同教団のファン・ギュチョル総務は、崔氏について「三神論と月経胎孕論をずっと主張しているので、今回は論争を終息させなければならない」と明かした。イ・キチャン総会長も「この席で論議する必要さえない事案」とし、「三神論とマリア月経胎孕論を決して認めることができない」と念を押した。他の教団関係者からも、「このような思想は見ることもなしに異端だ」などと非難する声が相次いだ。
崔氏の異端決議は韓国国内にとどまらない。同教団に連なる全世界の韓国人教会でも同じだ。大韓イエス教長老会海外合同総会(AUKPOC)は、大韓イエス教長老会(合同)傘下の海外大会として、北東アジア大会とアメリカ大会、アジア太平洋大会、韓米大会など4つの大会と30個の中会から構成されている。5月22日から25日にかけてタイ・バンコク恵みキリスト教会(ジョン・ソクチョン牧師)で開催された第34回総会でAUKPOCは、13個の議案のうち「崔三更牧師を異端と認定したグローバル宣教神学校総会の批准」を再確認した。
9月17日から21日にかけて大邱で開催された大韓イエス教長老会(合同)第97回定期総会初日の役員選挙で新しく総会長に選ばれたジョン・ジュンモ氏は、就任演説で「異端との戦争」を宣布し、会期中、異端問題に徹底的に対処する意向を示した。また、崔氏を名指しで非難し、「マリア月経胎孕論は正しくない。総会の決定を尊重する」と述べた。
山谷氏の崔氏支持が表面化
これまでも山谷氏と崔氏が協働しているという話はあった。しかし、今回山谷氏が崔氏の月経胎孕論を表立って支持したことにより、両氏が神学的に同じ立ち位置にあることが確認された。山谷氏が月経胎孕論への支持を表明したことに対し、救世軍が神学的にどう対応するのかが待たれる。
崔氏の月経胎孕論が韓国のキリスト教界で論争を呼んでいるこの時期に、山谷氏が崔氏支持を改めて表明した背景にも注目が集まる。