ある日の放課後、アメリカ人が英語を教えているので行こうと友人に誘われた。外人に会うのも初めてだし、しかもただで教えてくれると言う。みんなでワイワイ出かけた。種子島に着任したばかりのアルビン・ハモンド宣教師が、オートバイでかっこよく校門に入ってきた。
会場には三十名くらいの生徒が集まっていた。最初に、「すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます」(マタイ11:28)ということばを英語で暗唱する。
不思議に思った。重たい荷物を持ってあげると言うこの人は、だれだろう?ハモンド先生自身が語っているとばかり思い、「そうか、重い薪を背負っていると、この人が代わりに背負ってくれるのか。この人が背負ってくれたら、一回で終わり、後は遊べるなあ」と、今考えると恥ずかしくなるようなことを考えていた。それほどキリスト教とは縁のない生活をしていたのだ。だから誘われても礼拝には行かなかった。逆に少し事情が分かると、「何だ。キリスト教の勧誘か」と熱が冷めてしまった。
時々、お金をもらったり、米や野菜を運んだりするために家に帰った。貸し自転車を使うこともあったが、経費節約のためにバスには乗らず二十キロの道を五時間近くかけて歩くこともあった。
ある日、家に帰ると、暗いランプの下で父が本を読んでいる。いつも何か読んでいる父なので、その時は気にも留めなかった。父は食事の時も、何かブツブツ言ってから食べている。翌日の昼間に、昨夜父が読んでいた本を手に取って見たら、『新約聖書』とある。「あっ、キリスト教のバイブルだ」と驚き、すぐ手を離した。何か汚れでも付きそうな気がした。それからはできるだけ家に帰らないように、下宿先で過ごす期間を長くした。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。