19日に文京シビックホールにおいて、北朝鮮拉致問題の被害者、横田めぐみさんへの支援コンサート「AN EVENINIG FOR MEGUMI SAN(めぐみナイト)」が開催された。企画・制作は永井インターナショナルとキョードープロモーション。同会場ロビーでは横田めぐみさんの写真展を同時開催。コンサートには横田夫妻をはじめ、家族会や関係者が招待された。
同コンサートは、拉致問題を日本はもとより世界に訴えたい、というフォークグループのPP&M(ピーター、ポール&マリー)のノエル・ポール・ストゥーキー氏(注1)の呼びかけに応答し、南こうせつ氏、C.W.ニコル氏、角野卓造氏らが共演。3時間にわたるコンサートとなった。
このコンサートのきっかけとなったのは、今年2月にポール氏がめぐみさんの為に作曲した『Song For Megumi(めぐみに捧ぐ歌)』。(注2)
コンサートに先駆けての共同記者会見の中でポール氏は、「今日は祈りであり、希望の日」と語った。また、共演の南こうせつ氏は、「ポールさんは公民権運動の時にキング牧師と歌っていた。愛の力により、歌で一秒でも早く(めぐみさんが日本に)戻れるようにと願います。本来なら日本のアーティストがやるべきことをアメリカのアーティストにやっていただき、感謝しています」とコメント。横田滋さんは、「めぐみに曲を作っていただけるとは、夢のような話で、とてもいい曲を作っていただき、ポールさんのお陰で世界にこのことが知られることを嬉しく思っている。」横田早紀江さんは、「ものすごい闘いがあるけれど、感傷的になっていられない。夢のような話が実現して、歌を通して流れていくことを嬉しく思います。すべての人に感謝しています」と語った。記者会見の最後には、出演者全員で『We Shall Overcome』を歌った。
コンサート終盤には、「一番の私達の罪は2千年前にイエス・キリストを十字架につけたことだ」と永井氏が通訳し、『April Fool』を歌った。
最後の挨拶で早紀江さんは、「新潟で毎日絶叫して探し回った、海岸を気が狂ったように走り回った。それが30年という考えられないような長い時間を経て、こうした形になった。クリスチャンになった時、神様に導いてくださった兄弟姉妹に感謝します。めぐみへの歌が風にのって届けられるように祈ります」と語った。
最後に再び出演者全員で『We Shall Over Come』を歌った。
(注1) ノエル・ポール・ストゥーキー:1937年ボルティモア生まれ。60年代世界を席巻し、日本のニューミュージックの原点となったフォークミュージックの伝説的グループ、ピーター、ポール&マリーの1人。代表曲に『PAFF』『花はどこへ行った』『風に吹かれて』『悲しみのジェットプレイン』『500マイル』など。これまでに13枚のアルバムが全米TOP10入り、グラミー賞6度受賞。04年、『風に吹かれて』を40年間歌い続けた功績が認められ、グラミー賞の殿堂入りを果たした。米国メイン州ブルーヒル在住。三女の父。親日家。
PP&Mとしての活動の原点は公民権運動(黒人の選挙権の確立)に多大な貢献をしたことだ。20万人の壮絶ともいえる群集を前にワシントン広場で『風に吹かれて』を披露し、マーティン・ルーサー・キング師と共に抗議の行進をし、公民権を実現させた。PP&Mは70年代にいったん解散するが、80年に再結成して活動を再開。きっかけは反原子力運動。彼らはさらに人種差別(アパルトヘイト)運動にも力を注ぎ、『No easy to walk freedom』のLPをリリースし、ニューヨークからロサンゼルスまでの全米横断ツアーを行い、当時投獄されていたネルソン・マンデラ氏の解放を訴え続けた。
マンデラ氏は、アメリカから起こった国際的世論により解放され、ノーベル平和賞を受賞。南アフリカ共和国大統領に就任した。90年11月に30年間の投獄から解放されて来日した際、日本の人権団体が日比谷野外音楽堂で開催した「マンデラ氏歓迎会」のため東京に来ていたPP&Mの存在を知り、飛び入り参加した。楽屋裏でマンデラ氏が、「あなたが私のために曲を作って下さっているのは獄中で聞いていた。まさかこんなに早くお目にかかれるなんて嬉しいの一言だ」と語ったのに対し、ポール氏は「私達の祈りがあなたに届いたのだと思います。アパルトヘイト全滅の為にいかなる協力も惜しみません」と握手を交わした。
またマリー氏がアメリカに亡命中の金大中氏をパトロンとして長く援助したことから故アキノ大統領もPP&Mの援助の下にアメリカで安全を守られたことを知る人は少ない。これらのエピソードはPP&Mが20世紀の歴史の証人であるばかりでなく、ポール氏がその番人も務めてきたと言っても過言ではない。(最新アルバム『Promise of Love』ライナーノーツより)
(注2) 「Song For Megumi」作曲の経緯は以下の通り。
04年秋、ポール氏はPP&Mファンクラブの初代会長で同氏と40年以上の親交を持つ、(株)永井インターナショナル代表取締役、プロデューサーのYAS永井氏を通して横田めぐみさんの拉致問題を知る。06年夏、映画『めぐみ─引き裂かれた家族の30年(原題:Abduction The Megumi Yokota Story)』をアメリカで観て、横田めぐみさんの為に曲を書くことを決心。両親である横田夫妻の承諾を得た。横田夫妻の返答は以下のようなものだった。
「ちょうど今、日本全国での写真展が終わり、約17万人の動員があり大反響があった。また日本各地から数え切れぬほどの激励のお手紙を頂戴しており、私達がコツコツとこの10年間でやってきた成果として500万人の署名が集まっている。しかし、交渉はすべて政府に一任する以外道がなく、確かにブッシュ大統領にはお会いさせていただいたが、民間人の運動としてはある程度限界に来ている。もっと広く世界の人々に訴えたいのが本音。この30年間今までなんとか頑張ってきた。その間色々な情報に翻弄されたが、めぐみは生きているとの信念で私達は今日まで二人三脚でやってきた。ポールさんがめぐみのために歌を作ってくださるという夢のような話で、全世界に拉致問題の解決が必要とのメッセージが発せられ、とても嬉しく思っております。」
永井氏がアメリカのポール氏に直接電話すると、ポール氏は「YAS、僕は今心から嬉しいと同時に大きな責任も感じている。しかしきっと神が私に最高の曲が書ける力を与えてくれるだろう」と語り、以来永井氏とポール氏の電話とe-mailでのやりとりは100回以上に及んだという。「正直言って、この難しいテーマを音楽のマーケットに送り出す為にさまざまな障害や妨害があった。」(永井氏)CDの収益は、すべてめぐみさん基金に寄付される。
「ポールさんと初めてお会いしたのは今年の2月、2人で成田にお迎えに行った時でした。もちろん世界のPP&Mとして『花はどこへ行った』『PUFF』『500マイル』などを聴いてお名前は存じていたのですが、まさかそのポールさんがめぐみのために『Song for Megumi』を書いてくださり世界に向けてメッセージを発信してくれるなどとは想像もしませんでした。ポールさんとは言葉は通じなくても同世代であり、すぐにお鮨屋さんに行って意気投合してからは約一週間記者会見などでご一緒させていただきましたが本当に心の優しい思いやりのある方で私どもも心強い同志を得たと思っております。ポールさんの歌詞の中に<風の中にあなたの声が聴こえます>というところがあるのですが、これはまさに私(早紀江さん)がめぐみが失踪して途方にくれ新潟の浜辺をあてもなく彷徨いながら捜した時の心境そのもので、どうしてこのような奇跡に近い気持ちがお互いに通じたのでしょうか。私とポールさんがきっとフリー・クリスチャンということで神様が伝えてくれたものと今でも信じています。『Song For Megumi』は私たち拉致被害者家族の叫びそのものです。どうかこのCDを聴きながら一日も早い解決の日が来ることを皆様ご一緒に祈ってくだされば幸いの極みです。あらためましてこのCDの作製にご尽力いただいた方々に心より感謝申し上げますと同時に引き続き皆様のご支援をお願いしたいと存じます。」(『Promise of Love』横田滋、早紀江さん挨拶文より)
問い合わせは、永井インターナショナル(電話:03・3407・2200)まで。