中国西部 -- テーブルを囲み,中国人家族が団らんのひと時を過ごす。年老いた祖母と母が食事をテーブルに並べだすと,子どもたちは話すのをぴたりと止め,大好物を目に捉えると唾をゴクリと飲み込む。食事の合図と共に,数膳の箸が中央の大皿へ一斉に伸びる。
子どもと孫の満足げな顔を見て喜び微笑んでいるのは一家の父。家族のおしゃべりを聞きながら,顎に蓄えた白いひげを撫でる。彼の3人の娘は皆もう嫁に出てしまい,3人の息子も独立し,それぞれ仕事を持ち,自分の家族を養っている。
恰幅 (かっぷく)の良い父は壁掛け時計をちらりと見ると,すっくと立ち上がった。そして長男を肘でつつくと,奥の部屋へと消えていった。長男は自分の帽子を掴み,慌てて外に出ていく。
数軒隣の家,若い中国人男性が拡声器に手を伸ばす。“だみ声”で歌われる彼の歌は,家の合い向かいにあるカラオケから聞こえてくる同年代の歌とはだいぶ異なる。この歌は中国語ポップャ塔Oなどではない。それは,アラビア語での祈りの呼び掛けであった。
身を清めた後現れた父親は,別の男性と共に西の方角を向いた。メッカの方角である。拡声器から響きわたる合図の最後の文が読み上げられると同時に,先ほど出て行った長男が数百人の男性をモスクへと導いてきた。今日の3度目の祈りの時間である。
中国とイスラム教
彼らがムスリム家庭であろうなどとは想像もつかない。中国に数百万世帯ある他の家庭とは,外見上なんら変わりないのである。しかし彼らの日常の習慣は,世界の他の地域で行われているムスリム儀式のためのそれであった。
中国国内には,現在22万人以上のイスラム教信者がいると言われている。100年ほど前に,モンゴル,アラブ,ペルシャ,トルコといった地方から,いわゆるシルク・ロードを経て中国に伝播された。奇妙なことに,中国政府は国内におけるイスラム教の布教を認めている。
ほとんどのムスリム中国人は,中東のムスリム信者が行っているいるほど厳格な儀式は行っていない。聖典はアラビア語で書かれたコーランであるが,ほとんどの人はアラビア語を読むことができない。さらに何件かのモスクでは,男性と女性が同じ礼拝堂で祈ることを許可している。
それほど厳しく守られていないこの宗教であるが,中国との文化的結束は固いようである。キリスト教研究者によると,この結束の強さが中国人をキリストの福音から遠ざけているという。信者の多くは「ムハンマド」,「ファティマ」,「モウサ」のようなイスラム系の名前を持っている。若い世代の信者たちは,同じイスラム教共同体内部からしか配偶者を選ばないのだという。政府の社会主義者はこれを推奨し,信者の結束を固めようとしているとの報告もある。
彼らムスリム中国人たちによると,40代から60代の信者は本来の厳格な伝統に基づいて祈祷時間や礼拝を守っているという。彼らは昼間の仕事が終わった後,特別夜間学校でコーランを学ぶ。最近では子ども向けの6週間夏季短期講座等も毎年持たれ,若い世代にも徐々に信仰が浸透しているようである。
ムスリム家庭の家長である彼も,かつては子どもたちを養うために,工場で朝早くから夜遅くまで働いていた。現在,彼は日々をイスラム教伝播のために割いている。一日に5度の祈祷に人々をモスクへと導き,アラー神の喜びを得て,過去に失った時間を取り戻すために全てを捧げる。
家で,彼はイスラム教に関する書籍に没頭し,彼の長男,ムハンマドのための「図書館」にそれらを数百冊以上貯蔵している。ムハンマドは中東の大学でイスラム教を学んだ。彼はイスラムの教えの中で育ち,考え,生きてきた。そして彼は人々にアラーの教えを広めたいのだという。東南アジアで宣教師として数年間過ごした経験もある彼は,現在ではアラビア語で書かれた書籍の中国語翻訳に日々励んでいる。アラビア語を話す者はほとんどいなく,話せる者は大きな賞賛を受ける。彼は現在,6冊目の翻訳に取り掛かっている。
彼らの住む街にクリスチャンはいない。御言葉を聞くことのできる教会もなければ,通りかかる宣教師もほとんどいない。
しかし,そこから数千キロ離れた都市部では,クリスチャンたちは神様に祈りを捧げながら,聖書の翻訳と映画「ジーザス」の各方言翻訳が政府の取締りから守られるように神様に寄り頼んでいる。ムハンマドの家族のような人々が,奇跡と御言葉,そしてクリスチャンを通して,一日も早く真の神様に栄光を帰するように導かれることを祈っている。中国語を話せるクリスチャンが備えられ,ムスリム社会化し始めているこれらの小さな町々にも福音がもたらされる日の望みを,彼らは決して捨てない。
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