治療のために必要な1歳男児への輸血を拒否した親について、家庭裁判所に親権停止の処分を求めた児童相談所の請求がわずか半日で認められ、子どもの命が助かっていたことがわかった。親が子どもの手術を拒否した場合、児童相談所長の要求で親権停止が認められる例はこれまでにもあったが、即日認められるのは異例。一刻を争う状況の中で、親権者の同意の得られなかった手術の事後対応に窮する一方、親権介入の唯一の手段である法的手続きには時間がかかるという病院側の悩みに裁判所が理解を示したものとみられる。共同通信が伝えた。
同通信によると、事件は昨年夏、消化管内の大量出血で重体となった1歳男児の親が、宗教を理由に子どもへの輸血を拒んだことから発生。病院からの連絡を受けた児童相談所は、親の言動を児童虐待の一種とされる「医療ネグレクト」とみなし、すぐさま親権停止処分の法的手続きに入った。
「医療ネグレクト」とは、医療水準や社会通念に照らして、その子どもにとって必要かつ適切な医療を受けさせない行為を指す。たとえ親が子どもを病院に連れて行ったとしても、治療に同意しない場合は当然これに含まれる。
日本輸血・細胞治療学会など関連5学会による合同委員会(座長:大戸斉・福島県立医大教授)は昨年2月、15歳未満の患者に限り、本人や親が拒否しても命の危険があると判断される場合は輸血を行うとする方針を発表。病院側の決定に対して親権者による治療の妨げがあった場合は、子どもに対する「ネグレクト(養育放棄)行為」とみなし、親権者の職務停止処分の手続きを進めるとした。
今回の病院側の対応も、このガイドラインに従ったものとみられる。
関係者の話によると、主治医は患者の両親に対し、治療には緊急輸血が必要だと再三にわたり説得。それにもかかわらず両親は輸血を拒否し続けた。男児は吐き気などを訴えてショック状態だったという。
エホバの証人被害者全国集会実行委の資料によると、エホバの証人信者が輸血を必要とする治療例は全国で年間約1000件発生しており、うち約1割のケースで患者が15歳未満であると推定されている。