7日の早朝、パレスチナのテロ組織ハマスが「アル・アクサの洪水作戦」と称して、イスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた。これに対してイスラエル側は「鉄の剣作戦」と呼ばれる軍事作戦を展開し、ガザに空爆して報復攻撃を加え、両者の間で被害が拡大している。
最新の情報では、イスラエル側に700人超の死者が確認されており、750人が行方不明、そして負傷者は2千人を超えている。一方、パレスチナ側でも空爆による死者は413人となっており、両者の死者は1100人を超える。今回の奇襲攻撃では、近年で最大の被害をイスラエル側にもたらしている。この攻撃を受けてイスラエルは宣戦布告を宣言し、正式に戦争状態に入った。
近年、イスラエルはハマスのロケット攻撃を「アイアンドーム」と呼ばれる鉄壁の防空迎撃システムによってほぼ完璧に防いでいたが、今回はその防壁が突破されてしまったのだ。
ハマスとの紛争によるイスラエル側の死者数は、過去15年間でわずか308人だった。このことから、今回の奇襲による被害がどれほど甚大なのかが分かる。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、今回の攻撃の背後には、やはりと言うべきなのだがイラン革命防衛隊がおり、ハマスに攻撃命令を出して実行に移されたといわれている。
今回の攻撃は8月から用意周到に計画され、ハマスを実行部隊として、レバノンのヒズボラ、イラン革命防衛隊との共同で実行に移された。その結果、数千発のロケット弾を短時間で発射する飽和攻撃がなされ、鉄壁を誇るアイアンドームの防御システムが突破されてしまったのだ。
しかも上空からのロケット弾に加えて、今回はハマスが地上部隊を投入したため、被害が拡大した。地上部隊がガザ地区との分離壁や検問場を攻撃し、国境を越えてイスラエル側に侵入。民間人などを無差別に殺害し、拉致したのだ。
ガザとの国境付近では音楽フェスが開催されており、多くの若者が参加する会場が運悪くハマスの戦闘員に襲われた。ここだけで250人以上が殺害されたと報じられている。
イスラエル国防軍(IDF)関係者によると、ハマスの攻撃能力を完全に見誤っていたという。国際世論は、ハマスの暴挙にいち早く反応して抗議の声を上げた。米国をはじめとする西側諸国は、イスラエルへの支持とハマスへの非難を表明した。
一見無謀とも思えるハマスのイスラエル急襲だが、その理由の一つとして浮かび上がるのは、近年のサウジアラビアとイスラエルの急接近だ。ご存じのように、スンニ派の盟主サウジアラビアは、シーア派盟主のイランと敵対関係にある。そしてこのイランは、イスラエルを激しく敵視しており、イスラエルもまたイランを最大の敵対国と見ている。
そこでサウジとしては、国防とハイテク分野で世界最高水準を誇る先進国でイランを敵視するイスラエルと、敵対関係を続ける利点を見いだせないのだ。敵の敵は味方の論理だ。
サウジがイスラエルと友好関係を築くと、アラブ諸国全体に影響が及ぶ。それに痺れを切らせたイランが、ハマスを強硬にイスラエルにぶつけたという見立ては、決して的を外してはいないだろう。
気がかりなのは、ハマスを背後で操るイランとイスラエルの全面戦争に発展することだ。そして一部の地域の軍事的不安定が、台湾海峡などの軍事的緊張地域に連鎖反応を引き起こすことも、もちろんあり得る。
つまり、米国のミリタリーパワーが分散されることを望ましいことと思っている国々があり、イスラエルとパレスチナ、あるいはイスラエルとイランにまで戦闘が拡大することで、自国の領土的野心を達成する機会と捉える向きは十分にあり得るのだ。
イスラエルを支持する米国は、この地域の軍事的な不安定を抑制するために、ガザ地区沿岸の地中海に空母打撃群を派遣することを決めた。このように米国の軍事力が分散されることが、世界の軍事的不安定につながるのは明らかだ。
ともすると、このような極地的な火種が世界を巻き込むような大戦に発展する可能性を、歴史は決して否定しない。速やかに停戦に至り、イスラエルとハマスの憎しみと報復の連鎖が断ち切られるように祈ろう。両国のキリスト者がお互いの架け橋となり、平和をもたらすことができるよう祈っていただきたい。
■ イスラエルの宗教人口
ユダヤ教 75・4%
イスラム 16・7%
プロテスタント 0・4%
カトリック 1・0%
英国教会 0・02%
正教会 0・6%
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