3月に発生した銃乱射事件で9歳の娘を亡くしたカベナント長老教会(米テネシー州ナッシュビル)のチャド・スクラッグス主任牧師が、事件後初めて主日礼拝で説教した。スクラッグス牧師は自身が経験した複雑な悲しみの心境について語るとともに、痛みの中で家族を支えてくれた会衆に感謝の思いを伝えた。
「まず初めに、私たち(家族)は皆さんを愛しています」。スクラッグス牧師は5月14日の主日礼拝(英語)で会衆にそう語りかけ、「失ったものと得たもの」と題した説教を始めた。
「私たちは、(事件のあった)3月27日以前から皆さんを愛していましたが、(事件後)皆さんは私たちをどれほど愛してくれたか。ですから今は、より一層皆さんを愛しています」
スクラッグス牧師の4人の子どもの末っ子で、唯一の娘であったハリーさんは3月27日、隣接する教会立の小学校「カベナントスクール」で発生した銃乱射事件に巻き込まれ、命を奪われた6人(児童3人、教職員3人)のうちの1人となった。
事件を起こしたのは、同校の卒業生で、男性を自認するトランスジェンダーのオードリー・エリザベス・ヘール容疑者(28)。ヘール容疑者は、学校内の部屋のドアを次々と開けて発砲し、通報から約14分後に現場に駆け付けた警察官に射殺された(関連記事:教会設立のキリスト教系小学校で銃乱射事件、児童3人含む6人死亡)。
周囲からは頻繁に気遣う声をかけられるが、「私たちまだどう答えていいのか分かりません」とスクラッグス牧師。「私たちはうまくいっていません。今は、人生の新しい基準線を探しているような状況です」と語った。
その上でスクラッグス牧師は、C・S・ルイスが結婚後数年で亡くした妻の喪失についてつづった『悲しみをみつめて』に慰めを見いだしていると語った。
「ルイスは、喪失感を(手足の)切断のようだと語っていますが、これが私にとっては参考になっています。『調子はいかがですか』(と聞かれれば)『ええ、私たちは自分たちの一部を失って生きることを学んでいるところです』(と答えるのです)」
「腕を失うのと同じように、恐らく失った腕の痛みは、いつも私たちのそばにあります。今の私たちの立場からすると、その腕が再生するとか、天国では完全だとか、そのように考えるふりをすることは不可能だと感じています。だから、私たちは悲しみと共に生きることを学んでいるのだと思います。そして、私は皆さんにそれでよいのだと言います。皆さんはそれができます。悲しみと共に生きることを学ぶことが」
スクラッグス牧師は、自身と妻、そして遺された3人の息子たちが、この悲しみの時にあっても「孤独」を感じたことはないと言い、会衆への感謝を述べた。
「皆さんは、私たちと共に苦しんでくれました。それは、十字架の影の下にある愛が、言葉ではなく、共にいることと涙で最もよく表現されることを示すものです」
スクラッグス牧師は、人は死を「人間関係の断絶」として経験するとした上で、自身の家族が経験した教会からの愛と、十字架にかけられたイエスの下に来た女性たちとの間の類似性について話した。
「死は家族を破壊します。しかし、ここにいるイエスは、ご自身の死によって、ご自身の中で人間関係が断ち切られることは決してないと断言しています。家族は破壊されるのではなく、その逆なのです。イエスの下で家族は拡大し、成長するのです」
カベナントスクールはそのウェブサイトで、同校がカベナント長老教会の教会活動の一環として設立されたとし、「神の言葉を土台とし、それに基づいた優れた学問的経験を提供することにより、クリスチャンの両親と教会を支援するために設立された」とうたっている。
ヘール容疑者は3月27日午前10時ごろ、カベナントスクールに侵入し、152発の銃弾を放ち、いずれも9歳の児童3人と教職員3人を殺害した。
犠牲となった児童は、スクラッグス牧師の娘のハリーさん、イブリン・ディークハウスさん、ウィリアム・キニーさん。教職員は、用務員のマイク・ヒルさん(61)、臨時教員のシンシア・ピークさん(61)、児童を守ろうとヘール容疑者の方に走っていったとされる校長のキャサリン・クーンスさん(60)が犠牲となった。
ヘール容疑者は、駆け付けた警察官に射殺されるまで、半自動小銃2丁と拳銃1丁を所持していた。ナッシュビル警察のジョン・ドレイク署長は、予備捜査の結果、この襲撃は計画的で、標的を狙ったものだったと述べた。
米連邦捜査局(FBI)とナッシュビル警察は、ヘール容疑者の動機についてまだ公には発表していない。しかし、ヘール容疑者の自宅と車の中には詳細な犯行声明と計画が残されていたと伝えられており、現在、全米警察協会(NPA)などの団体が開示を求めて提訴している。