世界中の人々が「神の言葉」である聖書を母語で読めるようにしようと、米バージニア州の財団が、特に旧約聖書の翻訳を加速させるための取り組みを行っている。
取り組みを行っているのは、同州リッチモンドに拠点を置く聖書翻訳支援団体「4.2.20財団」(英語)。同財団は、旧約聖書の言語であるヘブライ語の翻訳者と専門家の養成を、エルサレムにある「聖書言語翻訳研究所」(IBLT)とオンラインで行っており、2033年までに世界の全ての言語で旧約聖書の翻訳が着手されるようにすることを目標としている。
同財団によると、新約聖書には、平均すると4節ごとに旧約聖書の参照や直接の引用が登場するという。そのため、人々が旧約聖書を理解することは非常に重要だとしている。
チーフスタッフのリッキー・ギドマル氏は、米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」(英語)に、同財団には現在、教師を含む35人以上のスタッフがおり、その規模は拡大中だと語った。
「私たちは、エルサレムまたはオンラインで訓練プログラムを終了した聖書の翻訳者と専門家に対する経済的な支援を続ける必要があります。彼らは、聖書を各々の母語へ翻訳する人たちであり、(訓練プログラムの)オンラインカリキュラムを開発したり、音声聖書や点字聖書の翻訳者のための資料を作ったりする人々だからです」
「訓練を受けた人たちが将来にわたってプロジェクトで奉仕し続けることができるよう、私たちは47以上の聖書翻訳機関と緊密に連携しています」
同財団が加盟する「世界ウィクリフ同盟」(WGA)の統計(2021年、英語)によると、世界には7378の言語があり、このうち旧新約を合わせた聖書全巻の翻訳が完了している言語は717。新約聖書はさらに1582の言語で翻訳が完了しているが、旧約聖書はこれらの言語ではまだ翻訳途中か、翻訳が行われていない。世界の言語のうち、旧約聖書の翻訳が完了している言語はわずか1割ということになる。
今年のペンテコステ(聖霊降臨祭)には、エルサレムで会合が持たれ、旧約聖書の翻訳の有無によって聖書理解に差が生じてしまう「旧約聖書ギャップ」について話し合われた。
4.2.20財団のデイビット・スワー会長兼最高責任者(CEO)は、米キリスト教テレビ局CBN(英語)に、次のように語った。
「会合は、まさにそれ(旧約聖書ギャップ)に関するものでした。私たちには、主を求めて深く祈る世界中から集まった人々がいます。旧約聖書はイエスが説いた御国の福音を理解するための基礎となるものです」
同財団の戦略イノベーションを担当するデイビッド・ハミルトン副会長は、彼らが旧約聖書を「原約聖書(Original Testament)」と呼んでいる理由を説明した。
「普通、古いものは捨てて、新しい他のものと取り換えたくなるものです。しかし旧約聖書は、何世代にもわたって築き上げられてきた遺産や価値の基礎となるものを語っています。旧約聖書は、イエスや使徒たちが使っていた聖書であり、私たちは全ての人に旧約聖書に触れてほしいと考えています」
ハミルトン氏はこれまで、宣教団体「ユース・ウィズ・ア・ミッション」(YWAM)で38年にわたり奉仕してきた。YWAMは、聖書翻訳が全く行われていない言語では、多くの人が字の読み書きをできないことに注目。2025年までに、聖書翻訳がまだ全く行われていない1000の言語で、厳選した30の聖句を音声翻訳する活動(英語)を行っている。
ハミルトン氏はまた、旧約聖書に登場するアブラハムやモーセ、ダビデ、その他の人物の物語を読まずに、新約聖書を理解することは不可能だと指摘した。
「(旧約聖書を読まなければ)エリコやエルサレムのような場所、紅海の横断や荒野のマナの出来事などについて、これらの物語が何であったのか全く理解できないでしょう。何が起こったの? この人たちは誰なの?となってしまいます」
旧約聖書の必要性を説明するために、4.2.20財団は、旧約聖書の参照部分を一切除いた新約聖書「欠落聖書(Gap Testament)」も作成しており、ハミルトン氏は次のように言う。
「(欠落)聖書を読み進めていくと、さまざまな部分が欠けていることが分かります。なぜなら、旧約聖書を理解せずに読むと、神の目的の全体像がつかめないからです。それため私たちは、神の素晴らしい言葉全体を全ての人が読めるようにしたいのです。私たちの目標は、全世界に全ての御言葉を届けることです」