南米の小国スリナムは、オランダの植民地支配を受けていた経緯から、南米の国には珍しくプロテスタント信仰が多数派を占める。また特徴的なのは、ヒンズー教徒やイスラム教徒も、それぞれ22・8%、16・9%とかなりの割合を占めている点だ。ヒンズー教に至っては、最大セクトのプロテスタントの23・5%に迫る勢いで拮抗している。
これは、19世紀後半から20世紀の前半にかけて、スリナム同様、オランダの植民地支配にあったインドネシアから多くのジャワ人が、スリナムのプランテーションで働くために移民したためだ。そのため全体的にはカトリックが大多数の南米としては珍しく、プロテスタントに加え、ヒンズー教徒やイスラム教徒が多いというわけだ。
実はこのスリナムだが、5月30日にイスラエルで行われた両外相会談の中で、米国、ホンジュラス、グアテマラ、コソボに続いて、スリナム大使館をテルアビブからエルサレムに移転することで合意されていた。ところが6月23日、スリナムのチャン・サントキ大統領は、3月に国内に大きな被害を及ぼした洪水災害への対応のためか、予算上の理由から大使館の移転計画を早急に求めない意向を明らかにした。このサントキ大統領を巡っては面白い話がある。
サントキ大統領は、田舎のインド系スリナム人の家庭の9人家族の末っ子として生まれ、ヒンズー教徒として育った。彼は警察官、警察官僚、法務・警察大臣のキャリアを経て、20年5月の総選挙で勝利し、同年7月16日、大統領候補として単独指名され、無投票で現職に就いた。
彼が大統領に就任しておよそ半年が経過して62歳の誕生日を迎えた昨年2月3日、大統領を祝福し祈るために、6人の指導的な牧師たちが祈祷会を開いた。牧師たちは大統領のために祈り、聖書で励ましの言葉を贈った。この祈祷会の様子をSNS上で共有してくれたロイド・ジェンジェ牧師は、「神はすべての人が救われることを望んでおられます。それは神の情熱です。ちょうどそれは、大統領がスリナムの統治に情熱を持っておられ、私たちもまた自分たちのことに情熱を傾けて大切にしているのと同様に、神はすべての国がうまくいくようにと情熱を持っておられるのです」と述べた。
このときCOVID-19に罹患して回復したばかりの大統領にとって、この誕生祝福の祈り会は特別なものになった。大統領は、自分が職務を最善に全うするためには、神の力が必要であることを信じると強調した。ヒンズー教徒のサントキ大統領は、なんとこの祈祷会で「われわれはこの国をイエス・キリストにささげ、スリナムの人々が皆、尊厳を持って幸せに暮らせるようにするつもりです」と述べたのだ。
サントキ大統領はスリナムの警察本部長を務め、麻薬カルテルに対抗するタフな犯罪捜査官として評判になった。また、前職の独裁者デシ・ボーターセ前大統領が不当に反対者を逮捕し死刑にした「12月殺人事件」の捜査にも着手した正義感の強い人物だ。
在イスラエル・スリナム大使館のテルアビブからエルサレムへの移転は目下頓挫してしまったが、サントキ政権がこれを目指した理由は、国益および外交上の理由が大きいのは間違いないが、大統領の近いところに牧師たちがいる状況を鑑みるなら、聖書預言やアブラハム契約(創世記12:1〜3)の観点によってこの決断に至った可能性を完全には排除できない。
いずれにしても、これらの牧師たちは大統領の救霊(あるいは既に信仰を告白しているかもしれないが)のために懸命に働いていることだろう。スリナムは人口60万人に満たない小国だが、まず大統領が救われ、彼が述べたように、この国がイエス・キリストにささげられ、多くの異教徒が主に立ち返り、南米のみならず世界に対して大きな霊的影響力を持つ国となるよう祈っていただきたい。
■ スリナムの宗教人口
プロテスタント 23・5%
カトリック 20・6%
英国教会 0・03%
イスラム 16・9%
ヒンズー 22・8%
ユダヤ教 0・2%