宗教界のノーベル賞と呼ばれる「テンプルトン賞」の今年の受賞者が、ノーベル物理学賞受賞者のフランク・ウィルチェック氏(70)に決まった。同賞の公式サイト(英語)で11日、発表された。
現在、米マサチューセッツ州工科大学(MIT)の教授などを務めるウィルチェック氏は、陽子や中性子の構成要素とされるクォークなどの粒子間に生じる力が、近距離になるにつれ弱くなるという性質(漸近的自由性)を発見したことで、2004年に他の物理学者2人と共にノーベル物理学賞を受賞した。テンプルトン賞は、「自然界の基本法則に対する境界を越える探究により、われわれの宇宙を支配する力についての理解を一変させた」とその業績を評価した。
カトリックの家庭で育ったウィルチェック氏は、現在はいずれの宗教的伝統にも根ざしていないとしているが、自身の著書では、「世界の仕組みを研究することは、神の仕組みを研究することであり、それによって神とは何かを知ることでもある。その精神に基づけば、知識の探求は礼拝の一形態であり、発見は啓示であると解釈することができる」などと述べている。
テンプルトン賞をノーベル賞受賞者が受賞するのはウィルチェック氏が6人目で、物理学者としては8人目。ウィルチェック氏は、今秋行われる授賞イベントで記念講演を行う予定。
テンプルトン賞は、世界で最も高額な賞金が贈られる世界最大級の年間個人賞の一つ。現在の賞金は130万ドル(約1億6千万円)だが、定期的に調整され、常にノーベル賞の賞金を上回る金額が贈られる。世界的な投資家で篤志家、また長老派のクリスチャンとして知られる故ジョン・テンプルトン氏が1972年に設立した。第1回の受賞者はマザー・テレサで、テゼ共同体の創始者であるブラザー・ロジェや大衆伝道者のビリー・グラハム氏、キャンパス・クルセード・フォー・クライスト(CCC)の創設者であるビル・ブライト氏、反アパルトヘイト運動を導いたデズモンド・ツツ元大主教など、キリスト教関係者の受賞も多い。日本人では、立正佼成会の開祖である庭野日敬(にっきょう)氏が受賞している。
宗教間の対話や交流に貢献した存命の宗教者や思想家、運動家などに贈られてきたことから、「宗教界のノーベル賞」と呼ばれてきた。現在は「科学の力を活用し、宇宙とその中における人類の位置付けと目的に関する最も深い問題の探求」に貢献した模範的な個人に贈られる賞とされ、最近の4年間は、ウィルチェック氏を含めいずれも科学者が受賞している。
昨年は、チンパンジーの研究で知られる霊長類学者のジェーン・グドール氏が受賞。会衆派の牧師を祖父に持つグドール氏は、特に信仰深い家庭で育ったわけではないとしつつも、「今日、科学と宗教が協力し、多くの人が宇宙や知性の背後にある目的を見いだそうとしていることは、うれしいこと」などと話している。
2020年に受賞した生命科学者のフランシス・コリンズ氏は、ヒトゲノム計画の責任者で、米国立衛生研究所(NIH)の所長を21年まで務めた。熱心なクリスチャンとして知られ、信仰と科学の調和を目指す「バイオロゴス財団」を創設するなどしている。