タテ社会が日本の発展を支える
単一民族で構成される日本は、集団を構成する際に、一定の枠(場)の中で極めて強いタテの人間関係を築く特徴を備えています(タテ社会の人間関係を学ぶ(1)(2)より)。
この特徴は日本の歴史の中で、国家の体制変化や緊急時に対し、国民が一致して効率的にその状況に適応する力を備えてきました。日本がかつて目覚ましい近代化を成し遂げることができたのも、このタテ社会の人間関係が大いに機能した結果でした。
日本以外の国では、多様な人間に統一的な働きを求める際、契約やルールなどの仕組み作りが必要になります。しかし日本では、同じ枠(場)を意識するだけで、リーダーから末端までの伝達が迅速に行われ、一致した行動に移ることができます。
もちろん、集団の統一的な動きが指示されない間は、末端の人々の中で意見の不一致や議論が噴出するのですが、いざ行動を起こす必要が生じると、タテ社会の構造が圧倒的な力を発揮し、集団の上位にある者の指示が末端まで行き渡ります。
このような日本人の特徴は、かつては日本の近代化に貢献しましたが、弱さを抱える現代社会においては新たな活力ある組織を生み出し、力強い日本を再生できる可能性を秘めているように思います。
タテ社会の弱点
このようなタテ社会ですが、下記のような弱点を合わせ持っているといわれています(タテ社会の人間関係を学ぶ(2)より)。
弱点① 集団の上位の意見が迅速に行き渡るため、各人はストレスを溜め込みながら自分を抑制することになる。
弱点② 集団の中にある同じ資格を持つ小集団や個人は、お互いがライバル関係となりやすく、連携が難しくなる。
弱点③ 集団内部では、ウチとソトをはっきりと区別し、時間の経過とともに閉鎖的な集団になる傾向を持っている。
(弱点①の対策)ストレスを癒やすヨコ社会
タテ社会に生きる多くの日本人は、ストレスを癒やすため、軽い絆のヨコ社会の中で活力を取り戻す工夫を持っています。
スポーツ、登山、釣りを楽しむ集いは、日本の中に数多く存在します。また、茶道、華道、書道、武芸、あるいは学習塾やスポーツ教室などの習い事の中にも、多くの日本人が集っています。
また、同じ集団の中でも、気心の知れた社員同士の集いや、それらの集団を積極的に支える福利厚生を提供する組織も企業内に存在します。比較的大きな地域教会には、聖歌隊、ゴスペル、華道、ピアノ、英会話、聖書研究などの集いが存在し、心を潤す楽しい時間を共有できます。
多くの日本人は、このような軽い絆のヨコ社会の中で活力を取り戻し、再びタテ社会の集団に戻っていきます。
このようにヨコ社会の存在は、ストレスの多い日本社会ではとても重要になりますが、社会を支える基盤としての機能はなく、タテ社会に組み込まれた各人のストレスを緩和させ、タテ社会の構造を支えるホッとする軽い絆の人間関係を備える役割を担います。
(弱点②、③の対策)タテ社会を活性化する工夫
日本の中には、タテ社会の構造に工夫を加えることによって拡大成長を続ける集団が存在します。
これらの集団の内部には複数の小集団が存在し、それより上層の序列にある人材は、全集団のリーダーと共に小集団の働きを活性化させる役割を担うことが多くなります。
このような集団は、全体の集団としてはタテ社会でありながら、内部の小集団が常に活性化される必要があるため、下記のような工夫が上層の序列にある人材によって行われます。
・小集団の働きが互いに重複しないように管理する。
・分離された小集団間の人の異動が頻繁に行われる。
・分野横断的に動く人材が存在する。
・集団全体のリーダーより、ストレスを緩和する希望や励ましのメッセージが直接届けられる。
日頃からこれらの工夫を繰り返す仕組みによって、これらの小集団はタテ社会の弱点から逃れ、あたかもお互いが強いヨコ社会を形成しているようなネットワークを作り上げることができます。
成長している地域教会や大企業の中に
例えば、成長している地域教会にはセルチャーチや家の教会があり、これらの小集団が活発に機能しています。小集団のリーダーは教会運営の重要なポジションにもあるため、教会全体としては主任牧師をリーダーとするタテ社会になっていますが、小集団(セルチャーチや家の教会)の働きが重要視され、自主的な活動が尊重されています。
小集団の上層の序列にある人材は、小集団の活動状況を常に把握し、小集団の働きが活性化され、連携が活発化されるように、分野横断的に動くことが多くなります。
教会によっては、小集団で持たれる礼拝が通常の礼拝として扱われ、教会全体の礼拝は、教会のリーダーから励ましのメッセージが届けられる補完的な位置付けになっているところもあります。
私の所属したトヨタ自動車においても、さまざまな小集団が存在します。それぞれの小集団に任された業務分野は広く、また将来にわたって幅広い責任を担っています。各小集団の生み出す成果はいずれもレベルが高く、それが組み合わされることで組織全体の大きな力になります。
このような小集団は基本的にはタテ社会ですので、閉鎖的でお互いの連携がとりにくくなる性質が内在していますが、小集団より上層の序列にある人材の間では、常に小集団の活性化を促す取り組みが検討され、実行されています。
私の30年以上の会社生活においても、毎年のように人事異動、職場編成が行われ、大胆な業務内容の変更を余儀なくされました。小集団内部の業務効率は一時的にかなり低下しますが、長い目で見れば小集団の活性化につながり、さらに他の集団との連携も改善されていきました。
職場に大きな変化があった際には、会社リーダーからその趣旨の説明と励ましのメッセージが直接届くことになり、モチベーションの向上が図られます。社員のそれぞれが業務に誇りを持ち、「もっといい車を作ろうよ!」という社長の呼び掛けが浸透します。
以上、タテ社会を有効に用いる仕組みについて事例を挙げましたが、弱さを抱える現代社会において、このような活力あるタテ社会をどのように作り、宣教拡大を推進するのか、具体的な提案を行いたいと思います。(次回に続く)
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