柔軟性のあるオープンな「タテ社会」
単一民族で構成される日本では一定の枠(場)の中に人が集まると、時間の経過とともに、そこに親密な人間関係が生まれ、ウチとソトがはっきりと区別される閉鎖的な「タテ社会」が構成されていきます(タテ社会の人間関係を学ぶ(1)(2)(3)より)。
日本人は長い歴史の中で、このような「タテ社会」の集団に所属して強い絆の人間関係を築いてきました。日本人にとって「タテ社会」は、お互いを支え合う大切な社会構造になっています。
現代社会では、欧米の個人主義の影響を受け、「タテ社会」の人間関係の中にある「気遣い」を嫌う人が増えました。しかし、「タテ社会」のただ中に生きている日本人ですから、私たちは有効な日本宣教の仕組みを創出するため、現代の日本人の心の基盤(神様への信仰)を支える、オープンな「タテ社会」をぜひとも再構築したいと考えています。
「タテ社会」の弱点が地域教会の宣教を阻んでいる
「タテ社会」は、単一民族で構成される日本特有の社会構造ですが、海外からの宣教によって生まれた地域教会も例外ではありません。信仰によるつながりの他、次第に日本人らしいタテにつながる人間関係の特徴が現れ、絆の強い仕え合う集団になっていきます。
それと同時に、ウチに向けた働きが忙しくなり、次第に閉鎖的な集団となり、ソトに向かう宣教活動は滞っていきます。
そのような集団は、ソトから見ても人間関係のしがらみが透けて見えますので、教会のウチに入る(教会に所属する)人は少なくなってしまいます。
日本では、多くの人がキリスト教に好感を抱いていますが、上記のような「タテ社会」の弱点を持つ地域教会が宣教を担っているため、日本のクリスチャン人口が増えない状況が続いています。
セルチャーチ、家の教会、教会増殖の効果
とはいえ、日本には例外的に多くの教会員を抱える地域教会が存在します。これらの地域教会に共通しているのは、教会内部に複数の小集団が存在している点です。
通常、タテ社会の弊害は、人や情報の入れ替わりが少ない状況で起こりますので、小集団を複数作り、情報交換や人の移動が活発に行われるなら、弊害はかなり抑制されます。
セルチャーチ、家の教会、教会増殖といった小集団を用いる手法が各地で採用されていますが、それぞれ一定の効果があり、比較的大きな教会に成長しているところもあります。
小集団を活性化させる分野横断人材
このような小集団を内部に持つ地域教会では、それぞれの小集団への情報伝達や人の移動を的確に行うため、小集団間を分野横断的に活動する人材が有効な役割を担います。
分野横断人材は組織の調整役ですから、一定の期間「タテ社会」の一員として同じ枠(場)を共有した上で、小集団のリーダーより上位の序列にある指導的な立場を有する人(例えば主任牧師)との信頼関係が築かれている必要があります。
「タテ社会」の特徴として、いったんこのような上位の序列にある人との信頼関係が築かれると、それより下位の序列にある小集団とも良い関係が得られますので、小集団に対してさまざまな助言やサポートが可能になります。
複数の「タテ社会」に所属する宣教人材
さらに、このような分野横断的な立場をとる人の中には、教会の「タテ社会」に所属しながら、教会外の「タテ社会」にも所属して、幅広いオープンな働きをしている人を見かけます。
もちろん、家庭や職場も「タテ社会」ですから、以前から、家庭を築き、職場で活躍する忙しい人はこのような教会生活を送っていたのですが、教会外に向けて宣教活動を行う人も、このような立場を積極的に用いて福音を持ち運ぶことができます。
しかも、宣教活動によって導かれた人を、所属教会の中にある適当な小集団に紹介することも可能ですので、教会にとっても、新鮮な人の移動が与えられ、閉鎖的になりやすい「タテ社会」の弊害から守られることになります。
今後の日本宣教の働きには、このような分野横断的な宣教人材の発掘と活用がカギになると思います。おそらく、私たちの宣教活動も、このようなタイプの人々が数多く担うことになるでしょう。
やがて、日本にある多くの地域教会や家庭、会社、地域の諸団体などが、柔軟性のあるオープンな「タテ社会」となり、福音が届きやすい環境が日本社会に整えられることを願っています。
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