教育を考えることが、実は教会の次世代を育成することにつながると私は考えている。その観点から、今回は本シリーズの第1回で紹介した5冊のうち3冊を短くレビューしてみたい。興味がある本からでいいので、まずは手に取って読んでみてもらいたい。そしてそこから得た知識に基づいて、まずは教会の大人たちとディスカッションできたらいいと考える。そして方向性を決めて、ユース世代への向き合い方を模索していくというのはどうだろうか。
1)石川一郎著『いま知らないと後悔する2024年の大学入試改革』(青春出版社、2021年)
本書は、2024年から大幅に改定される大学入試についての本である。読み手を40代から50代の「親御さん」に絞り、「皆さんの子どもさんはこれからこういった時代に大学を目指すのですよ」と分かりやすく提示してくれる良書である。ちなみに私の次女がまさに2024年に大学入試を迎えるため、他人事とは思えず手に取ったというのが本書との出会いである。
180ページ余りの新書だが、そこに込められた石川氏の熱意は相当なものであると思わされた。特に第1章「親が知らない令和の大学入試事情」は、何度も読み返した。そして幾度となく「へぇ~」と声を出してしまった。それくらい「聞きかじりの情報」しかインプットできていなかったことを痛感させられたからである。続く第2章は、入試の変更が単なる小手先の目くらましではないことが、「日本の教育改革」という俯瞰(ふかん)的な視野から語られている。こういう変化の中に自分の子が、そして教会のユース世代が足を踏み入れていくのかと思うと、読む手を止め、いろいろと考えさせられてしまった。
本書が最も言いたいことは、次の一文に尽きるだろう。
これからは「正解のない世界」において、より価値のあるものを生み出すことが求められます。それができるのは、大学に入学するにあたって「自分の興味があることや好きなことを、より深く学びたい」という明確な意志を持っている人物です。(37ページ)
こういった人材を輩出できるように、国が入試制度および学習指導要領を大きく変えてきた、というのが石川氏のアピールポイントとなる。この指針は、教会にとっては歓迎すべきことだともいえよう。なぜなら、教会が聖書を通して伝えていることは、まさに先の見えないこの社会にあって、聖書に従って生きるときに見えてくる「未来」を人々に示すことにあるのだから。そういった意味で、単なる暗記や相手の言うことを唯々諾々と行うような「昭和型」の人材ではなく、自らが創意工夫することで道を切り開いていく人材を育成することは、聖書の薫陶と重なるところが大いにあると私は考えている。
ユースの担当者、牧師、そしてユース世代を持つ親たちにとって、必読の一冊である。
2)佐藤郁哉著『大学改革の迷走』(筑摩書房、2019年)
本書は石川氏の本に比べると少し難解さがある。それは新書でありながら、470ページを超える大著であることからもうかがい知ることができる。大学教授(同志社大学商学部)として実際に大学内に身を置く佐藤氏の専門的かつリアリティーあふれる事例報告は、読む者の意識を決して逸らさない。私は非常勤講師としての関わりであるため、佐藤氏ほど大学の中身を知っているわけではない。そのため、外部から見える大学の姿と内部から見るそれとでは、こんなにも違うのかと思わされた。
冒頭、佐藤氏がやり玉に挙げるのは、今や大学の中で一般的となった「シラバス」や「SDGs」の考え方である。海外の大学で始まったシラバス制度を、単にその形だけ借りてきただけの日本の大学の「シラバス」。そこに透けて見えてくるものは何か。また、最近ではいろんな分野で姦(かしま)しく語られている「SDGs」についても、学者らしいアプローチで、佐藤氏の専門分野からの提言や修正がなされている。
こういったことは、特に高校を卒業して大学へ進むユース世代の若者たちに伝えるべきことを示唆している。彼らが夢と希望を持って大学へ、高等教育を受ける場へ出ていこうとしている。その時、気を付けるべきこと、物事を判断する着眼点などをはっきりと伝えることができるなら、彼らは「わがこと」としてそのアドバイスを受け入れるだろう。そういった情報や見通しを大人たちが指し示すことができるなら、彼らは心を開き、良き交わりもそこに生まれるはずである。そのような専門的な知識を理解したいという人、身に着けたいという人は、ぜひ本書を一読することをお薦めする。
3)森博嗣著『勉強の価値』(幻冬舎、2020年)
子どもたちはおしなべて勉強が嫌いである。正確には嫌いになっていく。どうしてか。ミステリー小説家であり大学教授である森氏はそれを、「大人(あなた)が勉強していないからだ」と喝破する。そんな少し読み手にビターな感覚を与えてしまう一冊が本書である。なかなか一筋縄ではいかない論理展開があり、まるで推理小説を読まされている感覚に陥ってしまう。しかし、ただひたすら知識の詰め込みで高校や大学に通ったユース世代たちに対し、もっと俯瞰的な視点で「勉強」について語る言葉を本書は与えてくれる。そういったユニークな視点を持ちながら、勉強について今までとは異なった論調で語ることができたら、そのズレが彼らにとっては新鮮に映るだろう。
森氏の発想は、私たちが日本の教育制度で「当たり前」と思ってきたことをまず「疑う」ところか始まっている。そうすることで、今までの世界観を客観視し、新たな視点で「勉強=学ぶ」ということの意義を見いださせる。確かにトリッキーな一冊だが、実は私のような昭和世代のアプリオリを打ち壊すのには最適である。新書で200ページ余りなので、あまりストレスを感じることなく一気に読み通せる。気分転換のような気持ちで読むと、意外に面白い着想を得ることになるかもしれない。あとは、それを教会の若者たちに面白おかしく語ってあげればいいのだ。(続く)
■ 少子化時代における教会の「次世代」のために:(1)(2)(3)(4)
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