12月24日に中国全土で公開される新作映画「平原のモーセ(平原上的摩西)」のタイトルが、「平原の炎(平原上的火焰)」に変更されることが発表された。タイトル中の「モーセ(摩西)」が聖書に登場する著名な人物の名前であることから、中国共産党の意向に配慮したのではないかと見られている。
米政府系ラジオ「自由アジア放送」(RFA、中国語)によると、張智(チャン・チー)監督が9月20日、北京国際映画祭で発表した。タイトル変更の理由を記者から尋ねられると、張監督は次のように答えた。
「この映画では、一つの要素として火をたくさん使っています。火を使って異なる時間、空間や感情を結び付けることで、私たちの人生を照らし、皆さんに明るさと強さをもたらしてくれることを願っています」
記者らは「モーセ」という名前が問題になったのではないかと質問したが、張監督は回答を拒否したという。
映画は、中国東北部の工業地帯を舞台に、タクシー運転手殺害事件の捜査をめぐる物語を描いたもので、中国人作家・双雪涛(シュアン・シュエタオ)の同名小説(『平原上的摩西』)を原作としている。
米人権擁護団体「華人基督徒公義団契」(CCFR)の劉貽(フランシス・リュー)牧師はRFAに対し、このタイトル変更は、公共の場からキリスト教関連の言葉を排除しようとする中国当局の姿勢を反映しているとして、次のように語った。
「モーセは単に聖書に出てくる名前というだけでなく、イスラエル人の国民的英雄でもあります。中国当局は、この名前に込められた積極的な意味を恐れているのではないでしょうか。例えば、彼がかつてエジプトの圧制に対抗してイスラエル人を率い、民族の自由と解放のために戦ったというような」
米エンタメ誌「バラエティー」(英語)は昨年6月、中国の人気俳優である周冬雨(チョウ・ドンユイ)と劉昊然(リウ・ハオラン)が出演するこの映画を、新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降に撮影が完了した「最初の注目すべき中国映画」の一つだとしている。
製作総指揮の刁亦男(ディアオ・イーナン)氏は、2014年のベルリン国際映画祭で、犯罪サスペンス映画「薄氷の殺人」により金熊賞(最優秀作品賞)を受賞している。
米キリスト教系人権団体「チャイナエイド」の3月発表の報告書によると、習近平国家主席の指示の下、中国共産党は近年、宗教に対する厳しい統制を行っている。
米迫害監視団体「オープンドアーズ」は、中国には約9700万人のキリスト教徒がいると推計しているが、その大部分は政府非公認の教会(家の教会)で礼拝しており、中国当局はこれらの教会を「違法」と見なしているという。
また、別の米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」は、20年7月から21年6月までの1年間に、中国で発生したキリスト教徒に対する迫害事件100件以上を確認しているとし、このうち14件は「中国化」(宗教団体を、中国共産党が定義する「中国文化」に強制的に同化させる国家キャンペーン)に絡むものだったとしている。
さらに中国当局は、今年初めに宗教関係者に対する新たな行政措置が施行されたことに伴い、聖書アプリやウィーチャット(中国発のメッセンジャーアプリ)のキリスト教系公開アカウントを削除するなど、デジタル上の統制も強めている。