潜伏キリシタンの遺物や文化財を中心に約1500点を収録した『潜伏キリシタン図譜』が12月に刊行される。長崎と天草地方に限らず全国に点在する潜伏キリシタンの痕跡を網羅し、地域別、時代順にまとめた約800ページオールカラーの本格的な一冊。付属のDVDには、潜伏キリシタンの祈りの歌「オラショ」の貴重な音源も収録されている。
潜伏キリシタンの遺物や文化財は、長崎、天草、平戸、島原、五島列島など九州を中心に、山口、大阪府茨木市などの畿内、東京、仙台、山形など全国各地に遺されている。だが、こうした記録を一つにまとめた資料はこれまでなかったという。本書では、各地域の時代背景を踏まえ、潜伏キリシタンの信仰を支えてきた信心具や関連遺物と、彼らを取り締まった為政者側の史資料や没収物を、それぞれ図版として紹介。すべて英語を併記して解説している。執筆陣には、キリシタン史が専門の五野井隆史東京大学名誉教授をはじめ、上野景文元駐バチカン大使、片岡瑠美子長崎純心大学学長らが名を連ねる。
発行人の髙祖敏明聖心女子大学学長は刊行の言葉で、「キリシタン史は日本の精神史や宗教文化史においては脇に置かれ、『禁教・迫害・殉教・潜伏』と続く展開は負の歴史と見なされ『腫物扱い』されてきたし、特に潜伏キリシタンの歴史的役割やその遺物の文化的価値は、一部の郷土史家や好事家を別にしてほぼ等閑視されてきた」と指摘する。「そうした扱いが続いたためか、潜伏キリシタンとつながる史資料の忘却と散逸が広く進行しており、それらに目を向け記録にとどめておくことができる最後のチャンスは今しかないと考えられる」と刊行の理由を述べている。
発刊プロジェクトには、前田万葉枢機卿や髙見三明長崎大司教、菊地功東京大司教も実行委員として参加。ローマ教皇フランシスコも本書の刊行について「極めて高い価値を有します」とコメントを寄せ、「潜伏キリシタンの歴史は、日本の教会の歴史にとってだけでなく、日本社会全体の歴史にとっても重要です。本図譜が、日本社会の過去について、さらには、現在、将来について省察するための絶好の機会を提供してくれるものと確信しています」と期待を示している。
『潜伏キリシタン図譜』は税別10万円。限定千部の刊行で、予約を受け付けている。予約の申し込みは、購入冊数、住所、氏名、電話番号を明記の上、潜伏キリシタン図譜プロジェクト実行委員会(FAX:0467・60・1205)まで。また同委では、さまざまなリターンを用意したクラウドファンディングも実施しており、12月29日午後11時まで受け付けている。