先月に引き続き、米国のための執り成しをお願いしたい。と言うのも、11月3日に控えている今回の大統領選挙の結果は、明日の世界の趨勢(すうせい)に重大な影響を及ぼす可能性が高いからだ。
この課題でも何度も取り上げたが、昨今、自由主義世界の脅威となりつつあるのが「膨張する中国」だ。2011年、中国のGDP(国民総生産)が日本を凌駕して世界第2位になったが、今ではなんと日本の3倍に達しようとしている。
中国のGDPが米国に肩を並べるのは、今までは2030年ごろになるといわれていたが、世界銀行、国際協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)などの最新の報告によると、その時期が早まる見込みのようだ。
新型コロナの影響から、2020年の米国のGDP成長率がマイナス6・1%と大幅に落ち込むのに比べ、いち早く回復基調に乗った中国経済は、1・0%のプラス成長率で乗り切ると見られている。そのため、米中のGDPの逆転は、2025年ごろに早まったとの見方がされている。これが単に経済の話なら何の問題もないのだが、GDPは政治力や軍事力などにも影響する最も単純な国力の総合指数だ。つまり、GDPの米中逆転現象が意味するところは、自由や民主主義、人権や人道、法の支配などの価値観を共有しない中国共産党が、自由世界の牽引役の米国でも抑制できない力を持ちつつあるということだ。
昨年10月のペンス副大統領の演説は、一切の妥協なく強い言葉で中共を非難して世界を驚かせた。自由諸国が直面している危機が、もはや許容できない限界点に達しつつあることをこの演説では滲ませたのだ。
政権発足当初より「信教の自由」を政策の軸に据えてきたトランプ内閣に対する米福音派信者の支持率は高く、ピューリサーチセンターの最新の統計では78%(10月13日発表統計:非白人福音派除く)となっている。信教の自由、イスラエルを取り巻く外交政策、反中絶、肉体の性に基づく性別の確定など、トランプ大統領は、米福音派が擁護する、聖書的普遍性のある価値観に立つ方向性を明確に打ち出しているのだ。
特に米福音派がトランプ大統領に多いに賛同を示したのが、9月18日にすい臓がんのため87歳で亡くなられた故ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の補充に、保守派のエイミー・コニー・バレット(48歳)判事を指名したことだろう。
米国では、中絶や同性結婚問題、公立学校での祈りなど、福音派信者にとって関心の高い問題の法的正当性は、連邦最高裁判所の9人の判事の決定に委ねられる。しかも最高裁判事の任期は終身制になるため、若手のバレット氏の起用は、長く米国社会に影響を及ぼすことになる。
保守派にして敬虔なカトリック教徒のバレット氏は、7人の子ども(うち2人はハイチからの養子)の母でもある。またバレット氏は「People of Praise」という超教派のカリスマ刷新運動グループにも所属しており、バレット氏がメンバーシップを置いている理由で、同グループは一躍注目されるようになった。これは教会ではなく、普段は特定の地域教会に集っている信者らによって構成される超教派(パラチャーチ)のグループだ。
「People of Praise」は1960年代後半のカトリック教会内の、異言などを伴う聖霊刷新運動から始まっており、今では全米に22の支部と、1700人のメンバー(多くがカトリック教徒)を擁している。
つまり、これらのことから言えるのは、バレット氏は名前だけの信者ではなく、信仰の実質を伴うボーンアゲンの信者だということだ。
バレット氏は今週いっぱい、最高裁判事承認をめぐる連日の公聴会に立たされており、14日の審問では、人口妊娠中絶や保険制度、性的少数者に関する是非を問う質問を浴びせられた。そこで彼女は、個別の事例に直接明言することは避け、あくまで法律家として「法の支配」に従う姿勢を示した。司法の独立性を重んじ、最高裁判事の承認が政争の具になってはいけないと、そのように受け答えした彼女は法律家として誠実であり、これは知恵のある対応だったと言えよう。
最高裁新判事承認をめぐっては、民主、共和両党で激しい対立が続いているが、共和党側はトランプ氏再選に弾みをつけるためにも、投票日前にはエイミー・コニー・バレット最高裁判事を誕生させたい思惑だ。
彼女のように神を畏れ、法治に忠実な判事をトランプ大統領が指名したことは、福音派のみならず、米国のキリスト教徒の33%を占めるカトリック教徒の支持も集めるとみられる。
そしてなんといっても「オクトーバー・サプライズ」として世間を驚かせたのが、今月2日に明らかになった、トランプ大統領のコロナウイルス感染のニュースだった。一時は選挙戦への影響を絶望視する声も上がったが、支援者である多くのキリスト者らの熱心な祈りの甲斐もあり、トランプ大統領は驚異的な回復を見せ、3日後の10月4日には病院を退院し、再び世間を驚かせた。
大統領は、14日に正式に陰性が確認されると、退院後初の大規模集会となるフロリダ遊説に臨み、3万人の支持者らを前に元気な姿を見せた。一部識者の間では、今回の感染からの回復劇が選挙戦を有利に進める追い風になるだろうとの見方をもある。
一方、対立候補のバイデン氏は、もともと親中色の強い政治家であり、現在の「膨張する中国」も、氏が8年間副大統領を務めたオバマ政権時代の負の遺産であるとも言える。バイデン氏は、自身が対中強硬姿勢に転じたと述べたが、どこまで本気なのかは不透明だ。
また彼が副大統領候補に指名したカマラ・ハリス氏は、出産直前までを合法とする過激な中絶推進派だ。バイデン候補に対する福音派の支持率が低い要因はその辺りにあるのだろう。
トランプ大統領は、例えば一般教書演説などで、まるで教会で聞いているかのような「力強いキリスト者の証し」を、当人を呼んで披露させることが多々ある。これほど大胆にキリスト教信仰を全面に押し出した大統領が、かつてあっただろうか。彼の言う「Make America Great Again!(アメリカを再び偉大に!)」の「偉大なアメリカ」とは、まさに「神を畏れ神を敬う、信仰のアメリカ」に他ならないのだ。
今回の大統領選挙のように「信仰VS世俗」がこれほど鮮明に問われる選挙が過去にあったのか、いささか記憶にない。いずれにせよ、今回の選挙は、国力の強化に伴い暴走する中国を背景に、米国のみならず、我々西側の自由世界全体の未来にも大きな影響を及ぼす選挙になることは否めない。
誰もが福音を聞くことができ、誰もがそれを信じることも、拒むこともできる自由を、地上の政府は神の僕としてこれを保障しなければならない(ロマ13:1〜7)。そして同じく神の僕である教会の使命は、福音の種を蒔く。この使命は、地上の政府に委ねられたのではなく、教会に委ねられた使命だ。
トランプ氏、バイデン氏、いずれが選ばれたとしても、そこに歴史の主であられる方の最善があると信じよう。明日の自由世界を守るために信教の自由を拡大し、聖書的普遍性にかなう正義と公正を樹立する、御心にかなった候補者が大統領に選ばれるように祈っていただきたい。
■ 米国の宗教人口
プロテスタント 35・3%
カトリック 21・2%
正教会 1・7%
ユダヤ教 1・7%
イスラム 1・6%
無神論者 16・5%
仏教 0・7%