上馬キリスト教会の「世界一ゆるい聖書」(せかゆる)シリーズの大ヒット以来、大喜利や「殺し文句」的な言い回しで聖書を語ろうと努力するクリスチャンが増えてきたように思う。同時に、従来の「キリスト教」的観点に立脚せず、むしろ「ゆるく」「面白く」聖書やキリスト教の歴史を語り直そうという試みが頻繁に行われるようになってきた。試しに、ツイッターでクリスチャンのアカウントをフォローしてみるといい。そういった類のツイートがわんさかと出てくる。
「せかゆる」のMAROさん(上馬キリスト教会のツイッター「まじめ担当」)からの情報では、シリーズ第2弾の『世界一ゆるい聖書教室』を読んだ読者が、あらためて第1弾の『世界一ゆるい聖書入門』を購入するというパターンが増えてきているという。やはり「原点にして傑作」を人々は手にしたいと思うようである。
そんな少し「異質な」クリスチャンたちのことがメディアで取り上げられるようになったからだろうか、ついにキリスト教学校のオフィシャル本として明治学院が昨春、『ヤバいぜ!聖書(バイブル) あなたに贈る40のメッセージ』を発刊した。明治学院といえば、最も有名なのは、学院の創立者にして、ヘボン式ローマ字の考案者でもあるジェームス・カーティス・ヘボン博士である。彼が日本の明治期に残した偉業は、今なお語り継がれるべきものである。例えば、日本のパスポート表記はまさに、彼の考案したヘボン式ローマ字が用いられている。私たちにとって決して縁遠い人ではない。
その明治学院の中・高・大学の教師、牧師(チャプレン)、そして学院長までもが執筆陣に加わり、21世紀の青年たち(当然、明治学院系列)に向けて「聖書」からメッセージ(40本も!)を語っているのが本書である。
「はじめに」から、その内容は振るっている。
聖書には無数の「穴」が空いています。
いきなり虚をつかれる書き出しである。さらに次の段落では、「穴」についてこう続けている。
この「穴」は鍵穴です。そしてこの鍵穴が無数にあるわけですが、その99パーセントはあなたにとって無意味に見えるかもしれません。でも、少なくとも一つ、あなたのために何千年も前から用意されている「穴」があります。実は、あなた自身がこの「穴」に当てはまるカギなのです。あなた自身が壮大な物語を起動させるカギです。
毎週、教会に集まった人々に「神からのメッセージ」を聖書の中から伝えている者としては、これ以上ない「ワクワク感」を与える滑り出しの言葉といえる。あとは、これが聞き手、読み手である若者たちに伝わることを願うばかりである。
本書の特徴は、見開き1ページという限定的な紙面に、1つのメッセージがコンパクトにまとめられた装丁にある。インパクトあるメッセージ題、その後に聖書の言葉、そして解説。解説の書き出しや論理展開、そしてオチが各章で異なっている。何よりも見事な筆致で得心が行くようにまとめられているため、「次はどんな話だろう?」と思わず次のページをめくってしまう。
「クロスリファレンス」として、同じようなテーマやそこで語られた内容に関連する箇所が示されるため、そのテーマの考察を深めたいと願う人は、その箇所に飛べばいいようになっている。
左のページ上は、資料編である。これがすごい。真面目な神学書から映画、文学、そしてマンガ「スラムダンク」や「マスターキートン」に至るまで、よくぞこれだけ満遍なくいろんなトピックスを集めたものだと感服させられる。そして、QRコードを掲載することで、二色刷りの紙媒体では表せない絵画(シャガールの「雅歌」他)など、「より本物に触れられる」ように考えられているところにも好感が持てた。
さらに左のページ下には「アクティブラーニング」として、語られたメッセージを読み手が実生活に適用できるように、いろいろな問い掛けが記されている。友達同士で思わず話し合いたくなるような話題もあるだろうから、こういった仕掛けもなかなか細かく配慮されているといえよう。
見落とされがちだが、私が一番気に入ったのは、左下から右下に向かって横書きで書かれている「聖書はみだしコラム」である。正直、笑えるものやズシンと来るものもある一方で、真面目過ぎてちょっと頂けないものもある。しかしこの「玉石混交ぶり」が面白い。「せかゆる」のように、すでに一つの世界観が構築された「読み物」も面白いが、しかしそれは同時に「合わない人には徹底して合わない」ということにもなり得る。それに比べて本書は複数の人が書いているため、守備範囲が広いといえよう。
本書は、明治学院のみに限定するにはあまりにも惜しい内容がいっぱい詰まっている。教会のユース世代向けの学びや聖書研究会などでも用いることができるなら、必ずや会衆は活性化していくことだろう。
■ 明治学院テキスト作成委員会編『ヤバいぜ!聖書(バイブル) あなたに贈る40のメッセージ』(新教出版社、2019年3月)
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