1. 3日間、目が見えたら
「目が見えない、耳が聞こえない、口が話せない」。生涯にわたって三重苦を負いつつ生き抜いたヘレン・ケラー。「3日間だけでも目が見えたら」というエッセイには、要約すると、次のように彼女の心からの願いが書かれている。
第1日目。まず初めに、ずっと狭い家に閉じこもっていた私を広い外の世界に連れ出してくださった最愛の家庭教師、アン・サリバン先生とお会いしたい。今まで指先だけで触っていた彼女のいつくしみ深いお顔と、麗しいお姿を何時間もじっと眺めながら、それを心の奥深くに刻み込みます。次に、親切にしてくれた友人たちにお会いします。家に帰りいろいろな本や壁の飾りを見ます。そして、森に散歩に出掛け、自然の美しさに我を忘れるほど圧倒されます。夕方にはまぶしく輝く夕焼けを見て祈ります。
第2日目。夜明けとともに起きて、太陽の輝きが眠っている大地を目覚めさせる壮大なパノラマを見て驚嘆します。午前は、ニューヨーク自然歴史博物館を見学し、神の天地創造から現代に至るまでの地球の歴史を一望します。午後は、メトロポリタン美術館を訪問し、歴史上の偉大な芸術家の絵画や彫刻の数々を心行くまで観賞します。その後は、劇場か映画館に行きます。そこで素晴らしい演劇かドラマを観ます。夜は、宝石のようにちりばめられた広大な夜空の星を眺めます。
第3日目。また新しい日の出を見ます。静かな郊外にある我が家を車で出て、近くの木や花に囲まれた家々の芝生に戯れる子どもたちを見ながら、さまざまな活動や仕事で活気あふれる市街に向かいます。そこで人々の喜び、笑い、悲しみ、苦悩といった表情を見て、それぞれに共感します。婦人たちのカラフルなドレスや服装を時間が過ぎるのも忘れて眺めます。ショーウィンドに並べられているきれいな品物を見て歩くのに夢中になります。最後の晩も、もう一度劇場に行き、面白い喜劇を見て楽しみます。家に戻り、目を閉じなければならない最後の瞬間に、私は3日間だけでも目が見えるようにしてくださった神様に感謝の祈りをささげ、永遠に暗い世界へ帰っていきます。
ヘレン・ケラーのこの切なる願いはかなえられなかった。けれども、肉の目が見えなくても、肉の耳が聞こえなくても、肉の口が話せなくても、彼女は、霊の目で見、霊の耳で聞き、霊の口で話すことができた。いつも天国への明るい希望にあふれていた。
「もしかしたら明日からあなたの目が見えなくなると思って、今日をしっかり見つめて生きてください。そうすれば、目が見えることだけでもどれほど大きな神様の恵みかを知ることができるでしょう」。彼女は私たちにこう提案している。
2. 3日間、目が不自由になったら
ある時、自転車に乗っていたら、急に強い風が吹いてきて両眼に埃(ほこり)がたくさん入ってしまった。あまりの痛さに目を開けることもできず、路上に自転車を置いてタクシーで家に帰った。その日は涙が止まらず寝込んでしまった。このまま目が開かなくなったらどうしようかと心配になった。知り合いの眼科医に電話で聞いたら、埃が入ったまま目をこすったりして角膜が損傷し、それが原因で炎症しているのだろうとのことだった。
次の日に起きたら、痛みは少し和らいだが、大量の目やにでまぶたがくっついてしまい、開けることができない。ようやく目やにを取って目が開いたら、世界が真っ白になっている。外出しても交差点の信号の色も区別がつかない。まったくの白銀の世界である。事務所に行き、書類を見ても、パソコンを見ても、白濁していてはっきり読めない。このまま目が白濁して治らなかったらどうしようかと恐れが生じた。
3日目になっても目は白濁したままだった。裁判で法廷に出ても、裁判官の顔がはっきり見えない。書類もよく読めない。これでは仕事にならない。だが、私は医者に行かない主義なので、癒やされるように神に必死に祈り続けた。
おかげで、4日目から正常に戻り始めたが、完治するまでに2週間かかった。目が普通に見えることがいかに大きな恵みかを悟り、以後、目が見えることを感謝して生活するようになった。
3. 目が見えるようになるなら
マイクロソフト社の創業者として成功し、世界一の大富豪になったビル・ゲイツ。ある時、数千人の医療関係者の集会で、彼が自分の成功の証しをスピーチした後の質疑応答の時間に、参加者の一人が立ち上がって発言した。
「ビル・ゲイツさん、大変重要な質問をさせてください。もし突然あなたが盲目になり一生目が見えなくなってしまったとします。でも、もしあなたの全財産を貧しい人たちに寄付すれば再び目が見えるようになるとします。そうだとしたら、あなたはもっと成功し続けるために盲目のまま一生を過ごす方を選びますか? それとも、全財産を寄付しても目が見えるようになる方を選びますか?」
あまりにも唐突な質問に固唾をのんで自分を注視する全会衆に向かい、ビル・ゲイツはきっぱりと、「私は全財産を寄付しても目が見えるようになる方を選びます!」と答えた。満場の拍手喝さいが止まらなかった。自分が懸命に働いて築いた「8兆円という財産」も、神がくださった「目が見えるという価値」にははるかに及ばないと判断したのである。その後、彼はビジネスの第一線から退き、約半分の財産を公益財団に寄付してエイズ撲滅などの慈善事業に携わっている。
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