これほどまでに太平洋を隔てた外国の国内選挙が耳目を集めたことがあったろうか。11月6日(日本時間7日)に行われた米国の中間選挙は、上院過半数を共和党、下院過半数を民主党が獲得した。同時に行われた州知事選ではジョージア州で当選者が確定せず、決選投票の様相を呈してはいるが、大勢は確定した。
上院では、共和党が過半数の51議席を死守。これによってドナルド・トランプ大統領は最高裁判事の指名をやりやすくなった。また、もし下院で「ロシア疑惑」による弾劾が活性化しようとも、それを押さえるだけの支持を得たという見方もできる。ちなみに州知事選挙は、共和党が民主党を制する結果となった。
しかし下院では民主党が過半数を獲得した。改選前の193議席から222議席ということで、評価はさまざまあれど、議席を増やしたことで、保守化傾向に歯止めがかかることは間違いない。いわゆる「ねじれ現象」が起こったことになる。
だがこれは決して珍しいことではない。前任のバラク・オバマ大統領も第2期は「ねじれ」状態であったし、両院とも敵対勢力の中で政治運営を迫られたビル・クリントン大統領やジョージ・ブッシュ大統領(パパブッシュ)のような例もある。
トランプ大統領は、民主党多数で勢いづく下院からの「ロシア疑惑」攻勢に対処すべく、選挙翌日の7日にジェフ・セッションズ司法長官を更迭し、マシュー・ウィティカー司法長官首席補佐官を長官代行に任命した。セッションズ長官がロシア疑惑に深く関わっている疑いがあったため、彼を排除することで捜査の進展を遅らせる狙いがあるのではないか、と各紙は報じている。
おそらく中間選挙に関する評価はさまざまであろうし、政治という舞台での優劣は今回のような「ねじれ」状態でははっきりと決め難いところがあるだろう。
私の興味関心は、このような結果から見えてくる「福音派」の動向と質的な変容にある。米国の世論調査機関であるピュー研究所は7日、早速「各宗教グループは中間選挙でどんな投票をしたか」(英語)を発表した。
それによると、白人の福音派キリスト教徒は75%が共和党に投票し、22%が民主党に投票したという結果になっている。つまり、福音派は共和党支持者が多数を占めている、ということになるだろう。
次いで興味深いのは、ユダヤ系や他宗教の信者、宗派を明らかにしない人たちは、いずれも7割以上が民主党に投票している(ユダヤ系79%、他宗教73%、宗派表明なし70%)ということである。ほぼ半々になったのはカトリック(民主50%、共和49%)である。
さらに今回の記事では、2008年以降4回行われた中間選挙に、白人福音派勢力がどの程度投票しているかというデータも掲載されていた。それによると、驚くべきか予想通りというべきか、白人福音派層は全体の4分の1の水準からほぼ変化していない(06年24%、10年25%、14年24%、18年24%)。
つまり、常に全体の25%前後を獲得し、それ以上になるわけでもなくそれ以下に落ちるわけでもない、そんな固定層が米国には出来上がっている。
各メディアで報じられているように、今回の中間選挙では16年の大統領選挙に投票へ行かなかった層(民族的マイノリティー、女性、アフリカ系、若年)が今回は積極的に選挙へ参加していることが挙げられる。事実、下院ではイスラム教徒であることや性的少数派であることを表明した候補者が当選し、女性の議員数が伸びる結果となった。
この点については、今月2日から日本でも公開された映画「華氏119」を観てもらいたい。あのマイケル・ムーア監督が「トランプ大統領を生み出した米国」を彼独自の視点から考察したドキュメンタリーとなっている。自らを「民主党」と公言しているムーア監督であるため政治色は確かに強い作品だが、そこで掲げられるデータ(16年の大統領選挙を棄権した割合など)は確かなものだろう。それによると約1億人が前回は投票に行かなかったとされている。今回はこの1億人にどうアピールするかだ、という作りになっている。映画としては分かりやすい単純な構図を作り上げているため、観ていて分かりやすいし面白い。ちょっと頭を使いながら楽しめる2時間である。
話を中間選挙に戻そう。今回の選挙は、投票者数が確実に増加しているにもかかわらず、固定層(白人福音派)の投票率が全体から見てそれほど落ちていないということになる。これは彼らが、18年の中間選挙で起こった新たな波をうまく乗りこなしたということであろう。その証拠に上院と知事選では共和党の優位は変わっていない。これによって「トランプ大統領は中間選挙をうまく乗り切った」と評価する識者の意見にも一定の説得力が生まれる。トランプ大統領の任期は残り2年。ではこの「任期」2年で彼の「人気」はどう変化するのか。すでに2020年の大統領選挙は始まっている。
◇