米国と北朝鮮の間で和平交渉が進む中、風船を使って北朝鮮にビラや福音のメッセージを送り届けているキリスト教団体の働きが禁止となった。
迫害下のキリスト教徒を支援する団体「殉教者の声」(VOM)の韓国支局で代表を務めるエリック・フォリー牧師は6月25日、12年間続けてきた北朝鮮への風船伝道を韓国政府が禁じたことを明らかにした。
フォリー氏がミッション・ネットワーク・ニュース(MNN、英語)に語ったところによると、韓国政府は北朝鮮を刺激することで和平交渉を危険にさらせたくないと考えているという。
「現在、私たちが直面しているのは風船伝道の完全な中止とその正当化です。韓国政府は、風船伝道が『和平の気運を損なう』と考えています。これによって分かるのは、北朝鮮政府が風船伝道を毛嫌いしているということです」
「長年、韓国政府は『今は時ではない。待ちなさい。北朝鮮を刺激してはいけない』と言い続けてきました。そして今、残念ながら国際社会がその論理を支持しているのです」
「風船伝道は、過去のある期間においても一時的に制限を受けました。しかし、今回の制限がそれと違うことは明らかです。韓国政府は風船伝道を包括的に禁じようとしてるのです」
韓国の英字紙「コリア・タイムス」(英語)も、政府関係者が民間人や民間団体による北朝鮮への風船伝道を禁じていると伝えている。
風船で北朝鮮に届けられるのは、聖書のメッセージだけではない。USBメモリーやビラによって北朝鮮国外の世界の情報も送り届けられる。韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」(FFNK)の代表を務める朴相学(パク・サンハク)氏など一部の脱北者らによると、北朝鮮の国民が手にする情報は政府のプロパガンダばかりで、外の世界の実情からは閉ざされている。
「もし脱北者が手紙や電話、インターネットで北朝鮮にいる親戚や家族に連絡を取れるなら、風船を飛ばして福音のメッセージや小さな贈り物を送る必要はありません」と朴氏は話す。
「命懸けで韓国に逃れてきた私たち脱北者には、故郷の人に自分が生きていることを知らせる義務があるのです。北の政権による宣伝とは異なり、南が地獄などではないことを伝えなければなりません」
一方、フォリー氏は「(現在)韓国と北朝鮮のキリスト教徒は、特に危険な時期にあります」と言う。「今の条件は政府が設定したものですが、昔から政府が設定した宣教の条件は教会にとってうまくいくものではないからです」
北朝鮮への風船伝道にはさまざまな宣教団体や組織が長年携わっており、中にはGPSの追跡機能を使うことで成功率を高めたものもある(関連記事:聖書のデータ入ったUSBメモリー千個を北朝鮮へ 脱北者が風船で飛ばす)。
韓国を拠点とする脱北者団体「ノー・チェーン」の創設者である鄭光逸(チョン・クァンイル)氏は昨年9月、聖書を記録した何千ものUSBメモリーを韓国北西部の京畿道(キョンギド)の国境付近から風船で飛ばした。USBは米国の大学生や高校生が寄贈したもので、北朝鮮領内の金剛山(クムガンサン)付近に落下したのをGPSで確認している。
「最近では、(チュニジアの)ジャスミン革命やアラブの春(の映像)を送りました」と、鄭氏は風船伝道について話す。「北朝鮮ではどうしてこういった革命が起こらないのでしょうか。その理由は簡単です。この国では情報が遮断されているのです。民衆は、自分たちの状況が本当に恐ろしいものであることを知りません。私たちは無知を打破したいのです」