東京都町田市には、クリスチャンのためのシェアハウスが2軒ある。いずれもNPO法人ホライズン・カルチャーセンターが運営している。同センターのシェアハウス部門代表で、東京ホライズンチャペル伝道師の袴田周(はかまだ・めぐる)氏が9日、インターナショナルVIPクラブ船橋で講演した。
同センターによる初めてのシェアハウスが運営を開始したのは2014年11月。5LDKの一軒家に、袴田氏を含む家族3人と、5人の若者がルームシェアをしながら生活をしている。もう1軒のシェアハウスがスタートしたのは今年3月。自己運営型のシェアハウスで、現在、3LDKに3人が暮らしている。
当初、同センターでは、「ひきこもり支援」の一環としてシェアハウスの運営を考えていた。場所は東京ではなく、米国で行うことがほぼ確定し、視察も行っていた。
「日本という狭い社会の中でひきこもってしまう人たちは、案外、近所には出られないけれど、遠くの地であれば外に出て社会活動ができることが、教会内外の青年たちを見る中でだんだん分かってきました。ですから、ひきこもっている人々を思い切って米国で支援したらどうかと考えたのです」
しかし、このプロジェクトは、大きな協力者の1人だったカウンセラーの突然の死により頓挫してしまった。それでも、ここまで「ひきこもり」「シェアハウス」をキーワードに研究をしてきた結果、分かったことがあった。それは、「多くの若者がひきこもっている、いないにかかわらず、シェアハウスのような場所が今こそ必要」ということだった。
「『無縁社会』という言葉に代表されるように、現代の日本は、近所付き合い、親せき関係、友人関係、果ては家族関係、親子関係までも希薄な時代になりました。そうした希薄な関係の中で育った子どもたちに何が起きるかというと、健全なセルフイメージと人間関係が持てないということです」
袴田氏自身もこのような経験を持つ青年の1人だった。両親は共働きで、父親は仕事に明け暮れ、ほとんど家にいることはなかった。夫婦仲の悪かった両親はやがて離婚したが、食事の時には常にテレビがついていて、家庭の間で会話らしい会話はなかったという。
やがて袴田氏は音楽大学に進学。ただ、そうした環境で育ったために、社交性は乏しく、セルフイメージも低い。専攻したトランペットの教師ともまともに会話することができず、まずは会話の練習からしなければならないほどだった。
しかし、この恩師との出会いが転機となった。妻に導かれてクリスチャンとなったその恩師が「第二の父親」となって袴田氏を支えてくれたのだ。袴田氏はその後さらに信仰を育み、恩師と共に祈ることで、徐々に健全なセルフイメージを持てるようなったという。また、教会に通い、受洗をした後も、教会での奉仕や周りの人と交わりを持つ中で、親密な関係を築き、傷ついた心も癒やされていった。
「現代の若者も、まさにこのようなことで傷つき、健全で親密な関係を築いた経験がないため、セルフイメージも低く、それによって自信さえ失っています。それは残念なことですが、忙しい日本社会に生きるクリスチャン青年も同じではないでしょうか。そこで、クリスチャンのためのシェアハウスを作りたいと考えたのです」
しかし、都内に大きな家を借りることは容易なことではない。毎日、祈る中で与えられた最初のシェアハウスは、袴田氏が神学生時代に家庭集会を行っていた場所だった。この家の持ち主だった夫妻が相次いで召天したため、遺族の計らいで、袴田氏がその家をシェアハウスとして借りられることになったのだ。
現在、神学生や一般の社会人などがそこで共に暮らし、文字どおり「同じ釜の飯」を食べている。親密な人間関係を作らざるを得ない状況に置かれ、毎日のディボーションや仲間たちとの分かち合いの中で、相手を信頼し、愛することを学んでいくのだという。
シェアハウスには最低限の規則がある。「電気をつけっぱなしにしない」などの当たり前のことから、掃除、食事の準備などのルールまで。「そのような中で、青年たちは実によく会話をするようになりました」と袴田氏は言う。毎日、聖書を開いてディボーションを行う中で、「意味のある会話」が彼らを癒やしているのだ。
テレビ番組などをきっかけに大きな話題を呼んでいるシェアハウス。クリスチャンの青年たちの新たな交流の場として、今後も注目が集まりそうだ。