キリスト教迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)によると、バチカン(ローマ教皇庁)は今年に入って、イスラム過激派による迫害でキリスト教人口が激減したため、イラクの首都バグダッドにある8つの教会を閉鎖した。
イラクでは、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭により、モスルやニネベ平原など同国北部にあったキリスト教社会が壊滅的な被害を受けた。さらにそれだけではなく、過去15年間にわたり、イラクのキリスト教徒は国内の多くの地域で迫害に苦しんできたという。
キリスト教人口の減少は、首都バグダッドも例外ではなく、ICCの報告(7月31日付、英語)によると、バグダッド市内の8つの教会は、礼拝出席者がほとんどいないか、まったくいない状態が7年近く続き、バチカンが今年5月に閉鎖を決めた。
ICCは、「この地域のカトリック教会当局がこれらの教会を訪れた後、バチカンは閉鎖するのが最善であると決定しました。これは事業的な視点では納得できますが、イラクの首都における教会の敗北を象徴しています」と伝えている。
バグダッドの元住民がICCに語ったところによると、イラクのキリスト教徒たちの国外避難は大きく3つの段階に分けられる。第1次避難は2005年〜07年、次にミサの最中にテロが発生した10年、そしてキリスト教徒が多く住むニネベ平原がISに襲撃された14年だという。
05年から宗教間の争いや、それに伴う脅迫行為が始まるようになり、キリスト教徒はイスラム過激派から頻繁に脅迫を受けるようになった。銃弾入りの封筒が届くことは日常茶飯事で、こうした脅迫により何千人ものキリスト教徒が自らの家を去ることを選んだ。
バグダッドに住んでいたセザさんは06年初めに、「48時間以内に退去しなければならない。持って行けるのは衣服だけで、それ以外の物を持って行けば、おまえたちを殺す」と告げる脅迫文と銃弾3つが入った封筒を受け取った。そのため、セザさんは無理にでも家を去らなければならなくなった。この時の脅迫文と銃弾3つは今も持っているという。
10年10月には、バグダッドにあるシリア典礼カトリック教会で自爆テロが発生。6人の自爆テロ犯が日曜日に行われていたミサを襲い、58人が死亡、78人が負傷した。この事件がさらに、多くのキリスト教徒に国外避難を迫ることになった。
そして14年に入ってISが台頭。ISは何千人もの宗教的少数派を殺害し、また奴隷とし、さらに何十万人もの人々を家や村から追い出した。キリスト教徒やヤジディ教徒、他の宗教的少数派に対するISの虐殺行為については、米国のジョン・ケリー元国務長官や欧州議会が「ジェノサイド(大虐殺)」だとし、強く非難している。
「2017年現在、イラクのキリスト教人口は、以前のほんの一部に過ぎません」。ICCは、イラクのキリスト教徒がISだけではなく、過去15年にわたってさまざまな形の迫害と差別を受け、現在の危機に直面していることを認識するのが重要だとしている。